「はぁ〜アッシュ今頃、どうしてんかな。」 ボソリと呟いたルークの独り言は、本来なら誰の耳にも触れずに流されるものだった。 「おや、ルーク。あなた、アッシュに会いたいのですか?」 「ジェ…ジェイド!?」 後方から突然聞こえて来た声に、心底驚いて、ルークは身を悶えさせた。 慌てて振り向くと、背後にそびえ立つジェイドの姿があった。 情けないことだが、ルークよりジェイドの方が随分と長身である。 間近に近寄られると、得体の知れない圧迫感を感じた。 だがだが、よく考えるとそれは長身というだけの理由ではないような気もしてくるのだが。 「人の背後に気配を消して、近づくなよ!」 考え事をしていたというせいでもあるが、それでも全然気がつくことが出来なかったのに少し悔しさも入り混じり、文句を言う。 「いやいや、軍人ですから。」 「軍人だからって、気配消すことねーだろうが。」 たしかに任務などで必要とされる場合はあるだろうが、今は真朝の宿屋である。 そんな怪しい足取りで近寄られるとは、思ってもいなかった。 行動とは反比例して、いつもの余裕綽々の表情を見せている。 「なに、あなたが何やら悩み事をしているようでしたからね。邪魔をしないようにと。」 そう、とっても胡散臭く言った。 「思いっきり、邪魔してるってーの。」 「まあ、そんな事はどうでもいいとして…」 「よくねーよ。」 続けようとしたジェイドの言葉にルークの横槍が一瞬入った。 が、そんなことも気に留めず、やはりジェイドは言葉を続けた。 「アッシュに会いたいのですか?」 またもや、ストレートにだったが。 「え…あ……うぅ……」 忘れ気味だった思慮を蒸し返されて、ルークの声はどもった。 声にまで出してしまったことは、無意識という領域に入るものではないのかもしれないが、それでも考えていたのかと聞かれたら肯定を示すようなものだった。 「おや、会いたくないと…」 「会いたい!!」 挑発するように出たジェイドの言葉をやっと遮り、ルークは声を上げた。 「べっ…別に、個人的に会いたいわけじゃないからな。 ヴァン 段々と、言い訳の言葉が見つからなくなり、ルークの声は先ほどとはうって変わり、みるみる内に小さくなって行く。 「では、会いに行きましょう。」 後ろ向きうじうじ君のままのルークは置いてけぼりにされて、次の目的地は決定した。 「大佐。なぜ、ナム孤島に来たのですか?」 「いやですねえ。アッシュに会うって先ほどから言っているじゃないですか。」 みんなが当然に思う質問に、やっと口を出したのはティアだったが、ジェイドはまた先ほどの言葉を繰り返すに終わる。 一度、渦潮を突っ切って進入したことのあるナム孤島は、切り立った山々の中にある。 以前は弾幕によって安易には近づけない場所となっていたが、現在は警報装置が外されているので空からアルビオールで乗りつけることが出来る。 だからと言って、未だ人里離れた場所であることには、違いないがアッシュがいるという考えにはなかなかめぐり合うことの出来ない場所でもあった。 「きっと、大佐のメガネは何でも見通せるんだよ。だから、アッシュの居場所もバッチグーなんだね。」 「まあ、あのメガネにはそのような仕掛けがありますの?マルクト軍とは恐ろしい兵器を開発しますわね。」 このときの、ジェイドの称号は"見通す人"ではあり、それを考えて何だかよくわらないが、アニスが便乗してポーズキメキメに言い切った。 それを真に受けるのはナタリアくらいなものではあったが、全員の心の片隅くらいにはあのジェイドならもしかしたら…という気持ちが湧き立ちもした。 アニスとナタリアのいつもの様子はさておき、しばらくナム孤島内を歩いたがアッシュが居る様子など微塵もない。 「んで、本当にここにアッシュがいるのか?」 半信半疑も高まってきたところで、ガイがやっと決定打を放った。 「まさか。いませんよ。 ナム孤島は漆黒の翼の本拠地ですが、ヴァン謡将が干渉しているとは思えません。アッシュが立ち寄るとは、全くもって考えられませんね。」 意気揚々と先頭を歩く、ジェイドの返答は誰もの期待を裏切る言葉だった。 しかし、ここまではっきりきっぱりと裏切るということは滅多にないことであり、みな唖然として立ち止まった。 「おい、ジェイド!どういうことだ?」 素早く反応したのはルークで、なまじ用があるときでもなかなか会えないアッシュに会えると心待ちにしていたこともあり、ショックも激しい。 問い詰めるように突っかかった。 「アッシュに会うためには、ルーク。あなたが必要なのです。」 「お、俺の?でも、俺、アッシュみたいに回線を繋げられないぜ。」 アニスいわくの便利連絡網ではあったが、オリジナルとレプリカの違いであるからか、ルークから自由に回線をつなぐということは出来なかった。 「いえいえ。それは別に出来なくても構いませんよ。 はい、着きました。」 そう言ってジェイドが歩みを止めたのは、ありじごくにんがいるエリアの前だった。 ケセドニアの裏路地で、同一人物ではないであろうが、一応は何度も会っているありじごくにんは、相変わらず意味不明に左右へふれている。 「ちょっ…俺にどうしろって言うんだよ?」 こんな場所に連れて来られても、アッシュの気配を感じられるわけでもないし、何もやりようがない。 「ルーク。あなた、前にありじごくにんに質問されたときに、結局最後まで答えませんでしたよね? さあ、もう一度話しかけて、今度こそ自分の気持ちに素直になりなさい。」 「う゛…」 ジェイドの追い討ちは図星すぎて、返って素直などなりにくくなる。 だが、そんな裏腹は知れているのだろう。 背中を押されて、ありじごくにんの前に足を持っていかされた。 ルークが近寄って来たことで、別に話しかけてもいないのに、ありじごくにんが前と同じ質問をしてきた。 「おまえぇどれが一番大切ぅ?」 前に聞かれた時は、無言のままで通してしまった。 それは、誰にしようかと別に悩んでいたから答えられなかったわけではない。 気恥ずかしくて、そう…彼の名前を呼ぶことが出来なかったからだ。 「俺が一番大切なのは、アッシュだ。」 深層に僅かに浮き出た感情は、口に出すという行為で明確なものになった。 その言葉に嘘も偽りもなくて、間違いのない断言だった。 ルークはその胸中をやっと認めて、自覚した。 「………それぇ選択肢になぃ。」 その答えにもちろん一番困ったのは、質問者のありじごくにんだった。 きちんと"どれ"と聞いているのに、想定外の人物をいわれて焦る。 「…でもぉ俺ぇガルドのために努力するぅ。」 暗転 「な、何だ?俺はなぜ、ここにいる?」 さすがのアッシュもこの事態には驚きを隠せなかったようで、目を見開いてあたりを見渡していた。 自分はヴァンの計画を打破すべく、各地をまわっていた筈だが、間違ってもこのような奇怪な場所へはやってきたことはなかった。 しかも、服にはなぜか砂のようなものまでついておるが、ここは別段砂漠というわけでもない。 ますますわからないことが増えるばかりだった。 何だか相当ありえないことではあったが、現実だけが目の前にあった。 「アッシュ!」 待ち望んでいた彼を見つけ、今まで会えなかった分も含めてルークは精一杯名前を呼んだ。 「これは、おまえの仕業か?」 人的生命体の方が多いと思われるナム孤島で見かけた見知った顔は、アッシュがいることが当たり前のようにやってくる。 わけのわからないままではあったが、こう問い詰めることで混乱を避けた。 「ごめん。俺、アッシュに会いたくて…」 「ふんっ。残念だが、ヴァンに関する有益な情報はないぞ。」 以前に、必然のように会った際から、時間というものだけは無常にも経過していたが、進展はなかった。 アッシュとて闇雲に探しているというわけでもないが、師でもあったヴァンの巧妙な手口になかなか糸口を発見することは出来なかった。 「違う。 久しぶりに会ったアッシュに、今まではそれほど感じなかった胸がルークの中で高鳴っている。 髪型や服装は違うとはいえ、同じ容姿のアッシュを切望したのは、彼がオリジナルだからではない。 アッシュだからだった。 「俺は、べつにおまえに会いたくはない。」 「そう…だよな。うん、わかってるよ。」 いきなりこんなところへ連れて来られたような形になって、それは当然の事だった。 今までの経緯から考えても、アッシュにとってルークは全てを奪い取った存在である。 今は、ヴァンの計画を阻止すべく協力というような関係を築いているが、そうでもなかったら好んで会いたくはないであろう。 「おまえ、何で俺に会いたかったんだ?」 「話をしたかったんだ。俺、アッシュのこと、ほとんど知らないから。」 回数的には今まで何度も会ったことはあったがそれは必要だからで、その必要が無くなった瞬間、アッシュはいつもルークの元を去っている。 アッシュはルークのオリジナルで、ヴァンとの関係や 「断る。俺は忙しい、帰る。」 それも至極、もっともな答えだった。 アッシュは踵を返して、ルークに背を向け反対方向へと歩き出した。 「…うん。邪魔してごめん……」 砕かれた淡い想いを抱くが、今のルークには去り行くアッシュを止めることの出来る何の権限もなかった。 なごりおしく謝り、その背中を見送った。 こうして、何度別れただろう。 そして、次はいつ会うことが出来るだろう。 そんなことばかりを考えていた。 「おい、レプリカ。俺はベルケンドに用がある。おまえが、こんなところまで連れてきたんだから、送っていけ。 その間なら……おまえと話してやってもいい。」 それは与えられたものではなかった。 自分の勇気で掴み取ったモノ アトガキ す、すみません。ありじごくにんのセーブデータ取っておいてないので、うろ覚えです。 何で、アッシュって選択肢がないの?と思って書いたお話でした。 2006/01/13 back menu next |