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鏡 に う つ っ た 約 束  9












近い将来、酷い結果が訪れます
それを初めから知っている方が、幸せですか?
知らなくて突然訪れた方が、それまでの時間を幸せに過ごせたと思えて、幸せですか?















それは、疑惑のまなざしから始まった。





「本当でしょうね?」
その言葉で固まるルークをさておき、半信半疑でジェイドは問う。

「嘘なんてつきませんよ。たしかに私はレプリカデータの採取をしていました。
しかしアッシュは潔癖で、他の六神将よりレプリカデータに関しては全く抜けませんでした。」
ディストにとっても、それは心残りだったらしい。
ほぞを噛みながらの様子だった。
アッシュがレプリカデータを抜かれないように気をつかっていたのは、やはり以前ヴァンの手によってレプリカルークを作られたからと思われる。
その危険性まで全てを熟知していたとは思えないが、それでもあの二の舞が起こらないようにと慎重になっていたのであろう。
当然、といえば当然の行動だった。
「だから、深淵のレプリカ施設にもいなかったのか。」
うれしいような悲しいような納得を、ルークはした。
アッシュのレプリカは、イコール自分とも同じ存在でもある。
それにご対面したら、さぞかし微妙な気分になっただろうし、あの状況では倒すという選択肢しかなかった。
もしアッシュのレプリカがいたとしたら、自分は手をかけることが出来ただろうか?と思う。
自分と同じ、自然の理に逆らった望まれない存在を。

「全く、こんなときに限って役立たずですねえ。
いいです。他の方法を探します。」
データがないのなら、いつまでもここに留まる理由はなかった。
まだ、他の方法など思いつきはしないのだが、それでも次を模索しなければいけない。
ジェイドはくるりと、後ろを向いて扉に手をかけた。



「待ちなさい!アッシュのデータはありませんが、レプリカルークのデータならあります。」
ディストは慌てて制止の言葉をかけて、叫んだ。

「レプリカルーク…って俺のことだよな。」
それに素早く反応したのはルークで、首をかしげながら呟く。
「どういうことです?」
向けていた背を戻し、ジェイドは反応する。

「以前、コーラル城でアッシュとの同調フォンスロットを開いたことがあったでしょう。
あの時のデータを、念の為取っておいてあります。」
「ああ、あの時のデータですか。」
アッシュに頼まれたというアリエッタの魔物に、コーラル城でルークは攫われた。
もう、随分と前のことだが確かに思い出した。

「その、データはどこに?」
「コーラル城にプロテクトをかけて保存してあります。
私しか解けませんので、仕方ない……面倒ですけど解除してきますよ。」
「珍しく協力的ですねえ。」
てっきり何か見返りを要求してくるかと思いきや、案外ディストは素直であった。
今までの経緯を考えると、気持ち悪いくらいにジェイドは感じる。



「勘違いしないで下さい。あなたに協力はしません。
ただ、親友のあなたの迷路をこの眼で見たいだけです。」

禁忌という名のつくものこそ、人は手を出したくなる。
死者を生き返らせるという冒涜を、ジェイドもディストもやってしまった。
失敗をしてしまった。
だが、失敗をして終わりではない。
過去を消すことは、生涯…いやたとえ死んだとしても出来ないことなのだから。

「私だって、内心どころか外心だってあなたと共同作業するなんて嫌ですよ。
さあ、行くならさっさと確認しに行きなさい。」
強調して、ジェイドは発破をかけた。
「あなたと一緒に行動なんてしたくありませんからね。先に行きます。」
と言い、ディストはさっさと出て行った。





こういう明け透けのない関係も友情の一つなのだなと、ルークは客観的に思った。
口に出したら、二人は多分怒る。








扉を開くと、雪風が舞った。
それは決して嫌じゃないと感じた。















「さて。まあディストのことですから、データは大丈夫だと思いますが…
コーラル城のデータとなると、十七歳のあなたの身体になります。それでもかまいませんか?」
口ではああだこうだと言っているが、互いを認めているのだろう。
あっさりとジェイドはそう言い、ルークに確認を取ってきた。
「そっか。やっぱり、今のっていうのは無理なんだな。」
「フォミクリー技術は、所詮は模造品コピーですから。成長した姿は望めません。」
今のルークは二十歳の身体に入っているが、精神年齢…というか実際に体感してきたのは、たった半分の十年である。
十七歳となると、その差が三年縮まるわけではあるが、今までと少し違う状況というのは慣れないかもしれない。
実際、成長期であった三年前とは背や体格も随分と変わっているのだから。

「別に気にしてないよ。心があるんだから、身体はあまり関係ない。」
アッシュと年齢差がついてしまうが、それもそれでいいかもしれない。
アッシュのレプリカだということが、ルークの一番の自慢だと思ったことはあった。
でも、二人は別々の存在なのだから。
きちんと楔を打つことも大切だと思った。
寂しいという感情は抑えて。
「前向きに考えて頂けて、私としても助かりますよ。」
少しは気にしたほうがいい…という言葉を、ジェイドは飲み込んだ。








「で、俺たちも早くコーラル城へ行かないのか?」
ディストと共にコーラル城へ行かないのはわかるとしても、次の目的地はルークにはそこしか考えられなかった。
「そうしたいのは山々ですが、その前に確認したいことがあります。ここで、というのも少し問題がありますので、一度タルタロスへ戻りましょう。」
「直ぐに確認できることなのか?」
ここで。と溜めたことがルークは引っかかった。
まるで、単純な確認のように聞こえたから。



「まあ、ここでも出来ないというわけではないのですがね。色々と支障が出るかもしれませんから。」
憂色が浮かべながら、ジェイドは意味深な音を落とした。
























希望が繋がった。
そして、これで何とかなるとルークは浮かれていた。










ディストの家を出ると、行きを逆走し、ケテルブルク港に停泊しているタルタロスを目指した。
ルークたちの帰還は意外と早かったらしく、乗組員たちは未だ凍結防止作業に追われていた。
コーネル城に行くにはやはりタルタロスを使わなくてはいけないので、ルークは音機関が本格始動するまでの間、前と同じ部屋で待機することになった。
さすがに雪の寒さにも慣れて来たと思っていたが、海上に近い甲板の吹き抜けの風は冷たい。
身体が完全に冷える前に、早々と部屋に戻ることとした。





カチャ

「あれ、ジェイド。どうしたんだ?」
室内のひんやりというよりはやっぱり寒い雰囲気の中、ジェイドはルークを待ち構えていた。
てっきり、操舵室あたりで指示に徹していると思っていたので、ルークは躊躇いの色を見せた。



「やはり、早急に確認したいことがありましてね。」
そう言ってジェイドは、冴えない顔をした。
「そういえばディストの家で、そんなこと言ってたな。」
それほど難儀なこととは、ルークは認識していなかった為、軽くそう言った。
座っていた椅子から立ち上がり、ジェイドはルークに近づいてきた。

そして





「ちょっと、アッシュに代わっていただけますか?」
その確認の言葉を口にした。



「ああ、わかった。」
何だ、そんなことか。と思いつつ、ルークは意識を漂白にした。
こうやってすることは、もう何度目かのことだったし、特に難しいと考えたわけでもなかった。










しばらく…という時間が経過した。
アッシュは出てこない。





「あれ、どうしたんだろう。」
いつまで経っても代わらぬその身体に、ルークは首を傾げた。
寝ているのかなと楽天的なことも考えたが、切り替わる主導権はアッシュが持っている。
ルークの目で見えているものは、アッシュも見えているらしい。
こちらから呼びかけをしなくとも、代わることは今まで出来た。





「いえ、結構です。それを知りたかったので。
………何かおかしいとは、感じませんか?」

「何のことだ?」
確認をしてきたのはジェイドの方なのに、逆に質問を投げられルークはよくわからなくなる。
「あなたがグランコクマに来てから、随分と日にちが経ちましたが…段々アッシュの人格が出てくることが少なくなっていますね。」
ルークには正確にはわからないであろうが、段々アッシュが表面化している感覚が短くなっていた。
それは故意かと思っていた。



「もしかして…アッシュの影響力が落ちている?」
漠然とした疑問が降ってきた。
今まで考えたことがなかった。
いつでも、アッシュとルークではアッシュが優性であったから。
ルークが劣性であることに、後ろ向きな感情を今更もったりはしなかった。
アッシュがオリジナルで、ルークがレプリカなのは間違いのない事実であるのだから。
それが、当たり前すぎた。










「そうです。そして、ルークとアッシュが別々の身体になったとしても、
このままではアッシュは消える………と私は推測しています。」






それは、彼を地の果てに落とす言葉だった。



























アトガキ
次、久々にアッシュ登場。
2006/02/02

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