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鏡 に う つ っ た 約 束  24












恋はむくわれない むくわれるのは愛のみ















ルークのその言葉は、確かにアッシュの耳に届いた。
だけど直ぐには飲み込めなくて、しばらく目を見開いていた。



「好き…だと?何、ふざけたことをぬかしてやがる!?」

ルークが何を言っているのか、アッシュはわからなかった。
好きという言葉を向けられたのが、生まれて始めてというわけではない。
問題は、その相手がルークだということだ。
自分のレプリカであり、嫌わなければいけないと思う存在。
ルークとアッシュの認識はあまりにも違うのだが、それをアッシュは認められなかった。





「ふざけてなんてない。
最初は自分のオリジナルだから追っていた。理想で…憧れで……惹かれていった。
俺はアッシュの心を見ているんだ。だからアッシュも、俺の心を見て欲しい。」

アッシュがオリジナルだから好きになったと、そう単純に言えればどれほど楽であろう。
確かにキッカケはそれなのかもしれないが、今ではそんな言葉では言い表せないほど、好きで仕方がなかった。
アッシュに生きて欲しかったのも、罪悪感からではない。
アッシュの存在こそが、ルークの存在につながっていたからだった。
オリジナルとレプリカの関係に一番固執しているのは、アッシュだということはわかっていた。

だから、それを逸脱して…何とか自分を見て欲しかった。



アッシュのレプリカではない、ただの“ルーク“を…













この時だけ、二人の翡翠の瞳が重なった。
流れた時間はそれほど長くはなかったけど、それだけでもう良かった。
このまま時間が止まってくれたら、どれだけの至福の中で死ねただろうか。










「…迷惑だ。
俺はおまえを、どうとも見れない。見たくもない。」

アッシュはルークの気持ちがわからなかった。
だから…こう答えるしかなかった。
直感的に出てきた選択肢と言葉を、アッシュは連ねた。





そして、ルークに訪れたのは、スパッと何か鋭利な刃物で切られたような感覚。

拒否をされた。
わかっていたんだ、こう言われるのは。
だけど、だからといってすんなりと受け入れられるように心は出来てはいなかった。



想うことさえも、許されない。

前とは違うはっきりとした絶望の淵に、ルークは立たされた。

















コン コン コン

どれくらいの時間が経過したであろうか。
立ちすくんで動けなくなったルークと、アッシュの空間に別の音が入った。



「アッシュ響士。ベルケンドへ移住施設技術協力の申請に向かう、お時間です。」
扉の向こうから事務的に告げられた言葉が、この場の終焉の証し。
「わかった。直ぐ向かう。」
そう、単にアッシュは言うと、引いていた椅子をしまって場を手短に片付けた。
扉の前で静止するルークの横をすり抜けた。



すれ違う横顔。

何もかもが噛み合うこともなく、呆気なく過ぎ去ってしまった。
















終わった…

最高に待ち望んだアッシュの元にいった結果が、これだった。



閉じられた扉の横の壁に寄りかかってルークは身を落とし、そのままずるずると滑り降りて、やがてぺたんと座り込む。
単純に落ちた身体よりも項垂れているのはその頭で…心の方はもっと違うところへと落ちていた。
この結果が訪れることはどこかでわかっていたのに、それでも打ち引きされた。
訪れるのは失意でそれは海に沈み、焦がれたこの身は情けなさに占領された。

追いかけようとも、浅ましくも一瞬だけ思った。
でも、アッシュの前途の邪魔はしたくない。
前進するアッシュの邪魔立てなど出来る筈がない。



アッシュにとって、ルークは必要ない。

それだけが、まざまざと見せ付けられた現実。
当然だ。進むべき道も定められずに中途半端で、それでアッシュと対等になろうだなんて虫が良すぎた。
それで、認めてくれる筈がない。










ガチャリッ

突然の物音と衝撃に、ルークはびくうっと身を弾けさせて、慌てて立ち上がる。



「大変、大変!!ありゃ…ルークだけ?」
ノックもなしに部屋に侵入してきたのはアニスで、騒ぎ立てた同時に意外と言う言葉を同時に放った。

「アッシュはベルケンドに行ったらしいけど…どうしたんだ?」
アッシュという名前を出すのも少し辛かったが、ルークはなんでもないふりをしてアニスに答えた。
「行き違い?あちゃー。
でも、ルークが第一優先らしいし、アッシュはとりあえず後回しでも大丈夫かな……」
悩みながらも声のトーンを落として、ぶつくさと独り言を言う。
そんな様子にルークは、ますますわからない。

「何かあったのか?」
「うん。マジヤバなことが。だから着いてきて、早く!」
そう言いつつ、アニスは開けっ放しの扉からもう出ようとしていた。
「おい、どこへ行くんだよ?」
律儀に後を追うルークだが、行き場所も目的もわからずに出立するのはさすがに不安でもあった。
目途くらいは知りたくて、走りつつも質問を投げる。





「理由は、ここじゃ言えないけど……バチカルに行くから!」

そう言うと、更に走る速度が増した。








名残惜しくあったダアトを、ルークは後にした。
























ダアトに戻ってからのアッシュは忙しかったが、それが良かった。
身体を動かしていないと、別のことを考える時間が与えられてしまうから。



思いというものは、考えれば考えるほど巡るものである。

考える時間を与えられてしまったアッシュは、心底イライラしていた。
思いの焦点にいるのはルークで、それがわかっているから余計に苛立つ。
かき乱す気持ちが、ウザったるく感じる。
気になるのは、ルークがアッシュのレプリカだからか。
それとも、ルークがルークだからか。



ルークはアッシュのレプリカだ。
でも、ルークはアッシュではない。

どうしてこんなにも、心がざわめく?
どうしてこんなにも、気持ちが揺さぶられる?

大体、ルークを見ているとイライラするから、見ないようにしたんだ。
距離をおけば、こんな気持ちは何処かへ吹き飛ぶと思った。



ルークはアッシュのレプリカで、それ以上でもそれ以下でもないはずだった。








「考え事ですか?」

声をかけられてアッシュは、はっと意識を戻した。
そう、今はベルケンドへ向かう最終確認をトリトハイム詠師としている真っ最中であった。
普段のアッシュからすれば、このような上の空は思い浮かばず、トリトハイムは思わず声をかけたのだった。



「悪かった。話を続けてくれ。」
意識が違うところへ飛んでいたのはアッシュ自身もわかっていたことで、早々に陳謝の言葉を出した。
「いえ。話は終わりました。ただ…少し意外でした。あなたの行動は。」
「意外?」
アッシュはヴァンによって、特務師団という塀に囲んでいた為、アッシュとトリトハイムの接点は今まで殆どなかった。
だから、そう言われたことに少し驚いた。
「レプリカを、憎んでいると思っていましたから。」
トリトハイムは、レプリカであるイオンやルークという人をみた。
彼らは、可能性を示唆してくれた。
それを知っている。そして生きている。
だから、レプリカの保護に関して積極的に支援の手を上げた。
しかしオリジナルの葛藤を持ったアッシュはどうであろう。
既にアッシュとルークの事情を浸透しているので、トリトハイムにはそういった認識があった。
「それは…今でもあるかもな。」
憎むという拭いきれない気持ちは、残っている気がした。



「でもあなたは数ある道から、この道を選んだ。それはなぜですか?」

たしかに、広がっている無限の可能性から取捨選択したのはこれだった。
尽力に人のためなどという綺麗な言葉で選んだわけではないとは思う。
レプリカだからと言って、失われて良い命などない。レムの塔で瘴気を消す為に散っていった何千ものレプリカたちへの罪悪感から…という気持ちもあったが、決定打ではない気がする。
ファブレ公爵の息子としてでなくてもやるべきことはあると思ったし、今更未練などない。
しがらみに囚われないで、俺は俺のできることをやる。
そう思っていた。
いや…無理やり思わせていたのか。



本当は、誰がこの道を選ばせた?



誰のために、選んだ?








「俺は自分のレプリカを見てきた。だから、オリジナルとレプリカの共存できる未来を作りたいだけだ。」

結論を見据えたくなくて、漠然と出た答えだけをアッシュは口にした。
だから、レプリカとオリジナルが共にいるのは無理だ、という言葉は言えない筈だ。



あいつの存在を認めてやってもいいと思った。
それなのに、あいつは馬鹿なことを言って…
それから…は、存在するであろうか。









俺が、あいつのことを理解しようとしていない?

“好き“という感情を考えたことがない?






わかろうとも思ってはいなかった。
凝り固まって、全てを見ていた。











自分の気持ちがどこにあるのか、わからなかった。





















一度離した手は、そう簡単には戻らない。























アトガキ
また、離れ離れ。あまりアッシュ視点じゃなかった。そして、またルーク視点に戻ります。
13話のアトガキが嘘になりそうで、怖い……阻止したい。
2006/03/24

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