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鏡 に う つ っ た 約 束  22












この時を、未来永劫待ち望んでいた















思い立ったルークの行動は、随分と早かった。



両親とバチカルに残っている他の仲間に謝辞を述べて、直ぐにダアトへと向かう準備をした。
ドクターストップはかからなかったが、長らくベッドに張り付いていたという状態からのいきなり移動するということに両親はいぶかしんだ。
しかし、ルークの決心が固いと判断した両親は、船を手配してくれたりして見送ってくれた。
散々迷惑をかけて、また勝手に行動してしまうことを非常に悪いと思っていたので、本当にありがたかった。








「ルーク。本当に一人で大丈夫?」
「ごめん……やっぱり、自分で何とかしたいから。気持ちだけ受け取っておくよ。」

バチカル港では、最後までティアがついてくるといったけど、丁重に断った。
アッシュとのことは、本当に個人的な問題だから。
これ以上、仲間を巻き込みたくはなかったし、人の力を借りて何とかするようなことでもないと思った。
自分自身の力で、この気持ちに決着をつけなければいけない。
ルークの足取りの颯爽に伴うように、船が意欲的に出港した。
















ダアト港と第4石碑を経て、ローレライ教団総本山ダアトを目指す。
こうやって徒歩でこの道のりを歩むのは、懐かしく感じる。

数年ぶりのダアトの街に、それほど大きな変化は見られなかった。
宗教の街だったこともあり、元々独特な雰囲気が漂っていてそれは変わらない。
現在でも預言スコアは詠まれないが、聖地巡礼のため訪れる人々は多い。
寡黙に往来する人々と共に、ルークは教会に向かった。








「申し訳ありませんが、こちらから先は関係者以外立ち入り禁止となっております。お戻りください。」

単独の構造物としてはオールドラントで最も複雑とされている教会内は、一般人が入れるところは以前より解放されているのだが、やはりローレライ教団は閉鎖的であるため、全ての場所を自由に行き来は出来ない。
閉ざされた譜陣や扉、そして警備に当たる神託の盾オラクル騎士団の兵に往く手を阻まれた。
元よりアッシュの居場所がわからないのに、それによって余計に伝が薄くなった。





たしかにルークは、神託の盾オラクル騎士団と直接的な関わりは何もなかった。

自分はアッシュのレプリカだから、アッシュに会いたいといえば、納得して兵は通してくれるのかもしれない。
だが、それを言いたくはなかった。



ルークがレプリカなのは事実だが、レプリカだからアッシュに会いたいわけではない。

ただ一人のルークとして、アッシュに会いたいのだ。





理想と現実の葛藤に、ルークはいた。













「あれ?……うっそーマジ、ルークだ!」
悶々としているルークの背後から声がかかる。

「アニス?」
聞きなれた甲高い声で、振り向く前にルークはその名前を口にした。
振り返ると思ったとおりで、いつもの教団服に身を包んだアニスが小走りでこちらにやってきた。

「うわぁ〜ティアからの伝書鳩で、ルークが目覚めたとは聞いたけどさ。こっちに来るなんて、びっくりだよ〜」
ローレライ教団の復興に忙しいアニスは、ルークの目覚めを待つ前にダアトに帰らなくてはいけなかった。
素直に身体全体で驚きを表現する様子は、本当にアニスらしい仕草であった。
「ごめんな。色々と迷惑かけて。」
「本当だよ〜まあ、元気になったんなら、あとで三倍返ししてくれれば良いけどさ。
で、こんなところで何してんの?」
さり気無く冗談交じりで恐ろしいことも含んで言っていたが、次にかくんと首を傾げて疑問を聞いた。

「俺、アッシュに会いたくて、ここまで来たんだけど…」
「なんだ。そんなことなら、このアニスちゃんにどーんと任せなさい。」
胸を張って、案内役を買ってでた。










アニスの顔パスもあり、神託の盾オラクル騎士団本部に堂々と入ることが出来た。
地下に位置する本部は膨大な空間が大きく取られており、見通しがよく広々している。
広い通路を伸び伸びと進んでいった。

「一応、アッシュの部屋に行くけどさ。もしかしたら、いないかもしれないから。そこんとこは、覚えといてね。」
久しぶりの雑談の中に、アニスの釘がちろりと刺された。
「ダアトにはいないのか?」
「あー、今は多分いるけどさ。ぶっちゃけ、今のローレライ教団って人手不足なのよ。」
困ったという顔をして、その問いに答えた。
「レプリカたちの支援は、そんなに大変なのか?」
詳しい事情はよくわからないが、元々ローレライ教団は預言スコアを詠むことを生業として活動してきた筈である。
しかし、今は預言スコアは詠まれていないし、神託の盾オラクル騎士団が暗躍するような戦争や紛争も起きてはいない。
暇だということはないだろうが、人手不足ということはあまり考えられなかった。
となると、レプリカたちの支援が忙しいのではということに頭がまわる。
「まあ、それもあるけど…ほらっ、ヴァン総長が神託の盾オラクル騎士団の半数を連れていっちゃったじゃない?その影響も結構あるんだよね。」
改革派、保守派、中立というわだかまりはなくなったが、少ない人数の中で精一杯やらなければいけないという現実があるからだという理由も強い。
「そっか、ヴァン師匠か。」
たしかに本部の広さより、教団兵の数は少なく見えた。
こうやって歩いていても、すれ違う兵は殆どいなかった。
大詠師モースの影響も強かったのだろうが、ヴァンがもたらした結果はローレライ教団の隅々に深い傷跡を残していた。
「だから、アッシュが戻って来てくれて大助かりだよ。手腕も行動力もあるしね。溜まっていた問題をもう二つも解決してくれたよ。」

「やっぱり凄いんだな、アッシュは。」
精力的に万進しているアッシュは自分とは大違いだ、と自虐の言葉を含めてルークはそう言った。
ルークの進むべき道は未だ定められていないから。
望む道はあるが、それが叶えられるかどうかは、今これからで決まるのだ。
自分で、叶える。



「悔しいけどそれは認められるかな。ローレライ教団からしてみると、アッシュは英雄って感じ?
まあ、導師の座は譲らないけどね。」
アニスは、ポーズを決めて胸を張った。
ガタガタになったローレライ教団の建て直しに忙しく、導師の座は未だ空位で、詠師トリトハイムが代行という形を取っている。
近い将来に、誰かが選出されるだろう。
直ぐに導師につけるだなんて、さすがのアニスも思ってはいないが、明確な目標は掲げるべきと自負しており、冗談だけではないその言葉を口にした。

「相変わらずだな。」
前はイオンのことで塞ぎこんでおり、時々暗い表情を見出していたアニスだったが、吹っ切れたらしい。
いつまでも引きずっているわけにはいかない。
沈んでいることをイオンが望むわけがない。

どこまでも前向きなアニスを見て、ルークは喜んだ。













「はい、着いたよ。私は、用事の途中だったから、ここで戻るから。」
随分と深部まで歩くと、端正な装飾を施された扉を前に、アニスは立ち止まり示唆をした。
「ありがとな。アニス。」
歩いている最中、この通路はどこに繋がっているかとかと結構細かく教えてくれたので、アニスがいなくても何とかルーク一人で外に出ることが出来そうだ。
そして、それを差し置いても感謝の気持ちでいっぱいだった。

「なんか、前のアッシュとは感じが違うような気がするんだよね。乙女のカンだけど……まあ、頑張って。」
アニスのエールに背中を押されて、ルークはその扉を叩いた。














コン コン コン
静かな廊下に、ノックの音だけが響く。



緊張し気味なルークは扉の向こうからの反応を待ったが、しばらく待てども声も聞こえないしその扉も開かれなかった。
やはりアニスが言っていたように、アッシュはいないのだろうか?
そうして、思案に暮れる。
しかし、いつまでもそう突っ立っているわけにはいかなかったので不味いかもとも思ったが、ルークはノブに手をかけた。
鍵はかかっていないようで、その扉をガチャリと開けた。





生活空間の少ない、殺風景なその部屋に









アッシュは、いた









望んでいたことなのに、その事実に身震いをする。

その衝動と衝撃で、ぐっ…とルークの息が詰まった。
心臓を鷲づかみされたような緊張と、芽生える思いが交差する。





ルークのノックが聞こえていたのか聞こえていなかったのかは、わからない。
だが、アッシュは開かれた扉の音に反応して、座っていた机から目を離してルークの方へ振り返った。
そのまま少し止まった。















「アッシュ……久しぶり。」



直ぐには返事を返さないアッシュに向かって、ルークは新たな始まりの言葉を述べた。
















アッシュという存在と



ルークという存在が



本当にはっきりと対面、対峙した。





















やっと…追いかけて、追いついた



























アトガキ
そろそろ、アシュルクって堂々と言える話を書きたいです…
2006/03/13

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