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鏡 に う つ っ た 約 束  21












本当に悔いの残っていない者だけが、自分で自分を殺すことが出来る















ルークは、生き抜いてしまった。
死を選んだ筈なのに、死にきれなかった。





そして、夢をみていた。
とても長すぎる夢を。

まるで映写機でそれを見ているような、第三者視点だった。
記憶を失ったと思われている自分の愚行が、映し出されている。
ルークでないようでルークである、ルークの様子が。
自分の行った愚かな行動のせいで…おかげで……アッシュは生きている。
それでも、生きれくれたことがうれしいんだと思えるほど、自分は馬鹿なんだ。













何よりもルークは

再び、アッシュに拒否されることを恐れていた。














アッシュに受け入れてもらえない。
アッシュに認めてもらえない。

そうわかると、自暴になり、全てを捨てて逃げ出してしまった。
そして表面化したのが、何もわからない昔の俺であったのだろう。
アクゼリュス崩壊前のわからなくて勝手振舞ったときより、わかっている分…タチが悪い。
それでアッシュに構ってもらえるとでも思っていたのか、俺は。



自分で閉じこもったのに、
本当はさびしくて仕方がないくせに…









そうだ。
人に認めてもらいたいなら、まずは自分を認めなくてはいけないんだ。

















自分を認めたルークに訪れたのは、余すことなく漏れた光だった。

うっすらと目を見開くと、見慣れた天井が視界を覆った。
考えるより先に首を少し左右に動かすと、やはり居る場所は、バチカルのファブレ公爵邸の自室なのだと自覚した。
おぼろな意識ではあるが、アクゼリュス跡の船上でぶっ倒れて、色々とありつつもバチカルに戻ってきたような気はする。
酷く曖昧であったが、身体に身についていた。
ブツリブツリと意識が途切れている。
急激な心の変化についていけないのは、身体の方だったらしい。
未だに身体はだるかったが、その身をなんとか起こした。
ベッドから立ち上がると軽い眩暈もしたが、それは想像していたよりもたいしたことではなかった。
むしろ、ずっと寝ていたような身体の動きが鈍くて、それが嫌だと感じた。






その時、カチャリ…とその扉が開かれた。

「っ………ルーク!目が覚めたのね。」
あまり予期していたことではなかったのだろうか、たまたま様子を見に来たティアは瞳を見開いて近寄った。



「ティア。色々と、迷惑かけてごめんな。俺、馬鹿だったよ。」
「あなた、記憶を無くしていた間のこと覚えているの?」
「ああ。結構、はっきりと…」
目に余る言動の数々を思い出して、ルークは少し影を落とした。

記憶のない自分の自由気ままに動いている様子を覚えていることは、少し変な感じだった。
時間相互のような、違う感覚をもたらす。
後にも先にもあのような体験をするのは、これが最初で最後であろうと思う。
だが、それを行ったのも自分だということは納得しなければならない。
あれは昔の自分だからと、責任を押し付けることも出来なかった。



「そう。でも、良かったわ。あなた、一週間以上もこうやってきちんと目を覚まさなかったのよ。」
心からそう安心するように、ティアは言った。

「一週間!?」
いくらなんでも、そんなに時間が経過しているとは思わなかった。
浅い意識の繰り返しで、今まで虚ろな頭が重かった。
途切れた意識が表面に出ることは何度かあったかもしれないが、それは短くて時間感覚というものはゼロに近かったから。
今、こうやって地面に立っているのは一週間ぶりということか…どおりで、平衡感覚も悪いんだなと納得した。
「ティア。もしかして、ずっとバチカルに居てくれたのか?」
一週間という日数を除いても、アッシュに強引に連れ去られるようにバチカルを出てアクゼリュス後から戻って来た事を考えると、相当の日数が経過している。
その間、バチカルに滞在していたとなると、本当にすまないという気持ちでいっぱいだった。

「ええ。でも、二年間も待っていたんだから、これくらいたいしたことないわ。
ルークは戻ってくるって信じていたから……他のみんなも、信じていた。」
アッシュのしたことは、正直あまり感心できることではなかった。
でも、ルークが戻ってきたことはやっぱり素直に喜べる。



「ありがとう。俺、戻ってきたよ。」

ここにはいない仲間にも、いくら感謝をしてもしきれなかった。
今度こそ、本当に戻ってきたと言い切れる。





たしかに…俺はココにいる。

そして、生きている。








おかえりの顔で、ティアはそれを受け止めた。



















「ごめん…俺、アッシュに会いたいんだけど、どこにいる?」

再会の感動もひと段落したところで、ルークは一番に気になっていた質問をした。
仲間の存在もあるが、何よりもルークにとってはアッシュの存在があるからこそ、戻ってこれたのだと思っている。
出来るなら早く会いたかった。
多分、何をしても怒られるとは思うが。








「アッシュは…………ダアトのローレライ教団に戻ったわ。」
一度区切って、ティアは瞳を反らした。
だがいつまでもそう押しとどめるわけにもいかない。
どうにか、その言葉を口にした。





「…ダアトに、戻った? なんで……」
驚きに目を見開いた。

自分を待っていて欲しいとか、そこまで自惚れた考えをルークは持っては居なかった。
でも、てっきり…バチカルのこの屋敷には帰って来てくれるのだとは思っていた。
ファブレ公爵やシュザンヌとは未だわだかまりはあるだろうが、両親はオリジナルやレプリカという考えは持っておらずアッシュとルークを一人の息子としての目で見ている。
離れていた10年間は、とても長い期間ではあるが実の両親であるのだから修復が不可能というはずはないはずだった。
それなのに…戻るという表現は、まるで『聖なる焔』の燃えかすという名のアッシュとして留まっているように感じられた。



「あなたは知らないかもしれないけど、今のローレライ教団は行き場のないレプリカを保護して、独立再生の道を示唆しているの。
アッシュは、『ルークという場所はとうに捨てた場所だから、今後はそっちに助力をしていく』と言って結局バチカルには再び足を踏み入れなかったわ。」
レムの塔で多くのレプリカの命と代償に得たレプリカたちの保護を最終的に受け入れたのは、ローレライ教団だった。
もちろん、キムラスカ・ランバルティア王国とマルクト帝国双方も甚大な協力はしているが、レプリカ精製元よりの原因は神託の盾オラクル騎士団のヴァン・グランツを中心とする教団員だったこともあり、ローレライ教団は積極的に受け入れ態勢を示した。
教団最高幹部のイオンでさえレプリカだったという衝撃は強かったが、そのイオンによって現在までの平和が保たれていたことは紛れもない事実であり、そういった面ではレプリカに対する偏見は少なかった。
二年という月日は流れ、レプリカたちもある程度安定はしてきたが、未だ世間のレプリカに対する風当たりは決して弱くはない。
そういった面を全面に少なくしていくための活動を、ローレライ教団はしていた。

イオンが望んだ……人を生かすための宗教として。








「そっか。アッシュは、アッシュで……もう進むべき道を決めたんだ。」
アッシュも、ローレライ教団の罪は十分にわかっている。
ヴァンが人間全部をレプリカにすると言い出す前までは己も加担もしていたのだから、その分罪の意識も重いのだろう。






そして、残されたのはルーク。
捨てられたわけではない。
元から、拾われてなどはいなかったのだから。




それでも、どこまでもすれ違う二人。

別々の身体が手に入れば…意識が戻ってくれば…どうにかなるなんて甘いことは思っていない。



だからこそ、これから何とかする。

アッシュの事に関すると、とたんに俺は臆病になったから。
きちんと気持ちを切り替える。














「ティア。悪いけど、もう一度ナイフ貸してくれないか?」
思案と共に手を差し出す。

「ルーク…もしかして。」
「もう一度、けじめをつけたいんだ。」

王族だからと一応半強制的に伸ばされてきた髪に、それほど未練はない。
むしろ、一回切っているので尚更で…そんなことよりも、自分の決心の甘さを断ち切りたかった。
少し戸惑ったティアだったが、そのナイフをルークに手渡す。
後ろで右手をやり、ルークは髪の房を持ち構えた。








もう、逃げはしない。
だから、遠慮もしない。










俺はアッシュしか求めていないから

俺はアッシュしか見えないから

俺の前途にあるものはアッシュ以外ありえないから

罵られても、拒否をされても、やっぱりこの想いを伝えたいから








刀身に映った自分の姿を一瞬だけ見る。
研ぎ澄まされて曇りのないナイフに写るのは、現在進行形の自分。



変わるだけじゃない。

今度は、全てを 受け止めて 受け入れて 突き進む為に



ルークは、再びその髪を切った。









ハラリっと指からすり抜けて舞う髪だけが、全ての罪の証ではない。

その罪は一生背負って行くモノ
















過去の俺は捨てられない。

過去の俺も、俺は俺だから。





最初に生まれたのはコーラル城かもしれないが、ルーク自身にその自覚はあまりない。

だから、ここがまた始まりの出発地点。















そうして、たった少しだけ笑みを見せた。





















アトガキ
2006/03/07

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