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鏡 に う つ っ た 約 束  13












生きてさえすれば、幸せなのですか?
望めば、呆気なく簡単に死ぬことができるのに















元から浮いていた身体だったが、完全に浮いた。
そう、意識という支えが無くなったルークが地核に漂流する。
どこまでも流されるように、落ちる。沈む。









「ふざけるな!!誰がそんなことを望んだ!?」

アッシュのその叫びは、ルークには届かなかった。
もう言葉を聞く器官が働いていなかったから。





アッシュの身体は、もどかしくて気だるく思うようにうまく動かせない。
こんなときに…
それでも何とか力を振り絞って、宙を泳ぐように、アッシュはルークの元に辿り着き、腕をつかむことが出来た。
脱力しているルーク身体だけが、アッシュの目の前に置かれる。

なんで、こいつはこんなに満足そうな顔をしているんだ?
まるでとても綺麗な死に顔のようだった。
瞳は閉じられているのに、頬にうっすら笑みさえ見える。
精神世界のようなこの場所で、ルークの自殺行為が有効かどうかなんてわからない。
いや、精神世界だからこそ…それは有効なのかもしれない。
共倒れなんて、それこそ冗談ではなかった。



アッシュは、身体の芯に神経を張り巡らせる。

「動け!俺の身体。」








地核に浮かぶ精神体の自分への命令ではない。
陽だまりの存在する、"生"の世界へ


























瞳が開いた。
直ぐに、そして明確にはっきりと物が見える。
横たわっていたのは、アブソーブ ゲートの巨大譜陣の中心部。
最下層より更に下部に位置するその場所で、目覚めて最初に飛び込んできたのはどこまでの吹き抜けの天であった。

「ルーク?」
傍らで待っていたのはジェイドで、正常ではない目覚めをした彼に疑問の声をかけた。
「俺を、コーラル城へ連れて行け!」
ルークと呼ばれた存在は、がばっと素早く身を立ち上げるとジェイドに噛み付くような勢いで、そう言った。
数時間前、ここで超振動を使ったルークは緊迫した状態だった。
だが、今こう叫ぶ彼はそれ以上の緊迫感を有していた。
「あなたは…アッシュですか?」
消え行くと思っていたアッシュが出てくるとはジェイドも思わず、いつもの余裕の表情を少し崩した。
「早くしろ!あいつが死ぬ。」
状況を飲み込めなくて立ち止まるジェイドに、アッシュは発破をかけた。

自分がこの身体に表面化することが出来た。
それがアッシュにとって、一番の問題であった。
ほとんど影響力の無くなっているアッシュが出てこられるということは、ルークの影響力はそのアッシュさえも下回っているということになる。
一つの身体に二つの心ということこそが、不安定で危険な要素なのだ。
そのままの状態を保てば、アッシュが消えると同時にルークも消える。
むしろ、ルークが消える方が早いであろうと思われた。



「一体、どうしたのですか?」
コーラル城で二人を分けることはルークが望んだことではあったが、それをアッシュが口にするということがジェイドにはよくわからない。
ルークには悪いが、そう簡単に説得できるようなものではないと思っていたから。
「理由はあとだ。いいから、急げ!」

一分を惜しいと思ったことはある。
だが、一秒をこれほど求めたことはなかった。





駆け足で、アッシュはおぼつかない足を動かした。
長い長いアブソーブ ゲートの入り口を目指して、二人は上って行った。

















行きの時より早くついたのは、どこまでも走ったから。
タルタロスにさっさと乗り込むと、急発進を果たした。
動力である、第五音素の譜力を上げて一気に加速すると、波がどこまでもうねった。








「ルークが、そんなことを……」
重い口を開き、アッシュは仕方なくジェイドに、地核での出来事を話した。
今のルークの状態をどうにかするには、不本意ではあったが状況を説明しなければいけなかった。
「あなた自身もあまり他人のことは言えませんが、ルークも無茶をする。」
「ジェイド。てめえだって、ヴァンの本当の計画は知っていやがったんだろ?」
アッシュはヴァンから直接にレプリカ計画の全容を聞いたわけではなかったから、後々わかったことであった。
だが、ジェイドはフォミクリーの考案者である。
その可能性の示唆を知ることは十分にありえることであった。

「何となく、ですけどね。そして、あなたが死を選ぶ理由も…
だから、ルークには言わなかった。いえ、残酷すぎて言えなかったんですよ。」

気づいていなかったといえば嘘になる。
しかし、思ったこと全てを口に出していいというわけではない。
憶測で口に出すということは、いつの間にかそれを認めたことになるのだから。
ルークが極限まで思いつめていることは、ジェイドにもよくわかっていた。
だからこそ、アッシュに会い、改善の道を模索できると思っていたのに、それは最悪の道に進んでしまった。
この結果を生んだ原因は、ルークにもアッシュにもあるのだが。





そのジェイドの言葉にアッシュは答えなかった。
ただ部屋に一つ残された、持ち主のいない日記を拾い上げた。
















全速力で進ませたタルタロスを、コーラル城の岸壁へと乗りつけた。
本来なら、そこは乗り降りするような場所ではないのだが、一番近いカイツール軍港にまで行っている時間はなかった。
荒ぶる波を尻目に、城内へと侵入した。
鬱蒼としたコーラル城は、依然と変わりはなかった。
未だ名義はファブレ公爵の別荘であるが、立地条件の不便さや城の老朽化などが考慮されて、その本来の役割は果たされていない。
ここで、十年前にレプリカであるルークは生まれた。
何もかもを奪われたアッシュにとっては、正直苦い思い出のある場所であるからして、あの日以来一度も足を踏み入れることはしていなかった。
だが、今はそんなことを言っている場合ではなかった。
住み着いた魔物をなぎ払い、進んでいく。
アッシュの状態はそれほど良いともいえなかったが、雑魚を一掃していった。
仕掛けの解かれた開けっ放しの小部屋を通り過ぎ、階段を下りていくと光の差し込む広い空間に出た。









「ディスト。ルークのレプリカデータは?」
「何ですか?いきなり来て、バタバタ騒がしいですよ。」
壮大に置かれたフォミクリー装置の下層部で、ディストは忙しく作業を営んでいた。
それなのにねぎらいの言葉の一つも無く、結果だけを求めるジェイドの言葉は不満だった。
「ガタガタ言ってねえで、どこにあるのかさっさと言いやがれ!」
「あなた…アッシュですか?全く、ややこしいですねえ。
これが、ルークレプリカの音譜盤フォンディスクの解析結果です。」
ぶつくさと言いながらも、ディストは解析結果の書かれた書類一式をジェイドに手渡した。
ジェイドはその書類を素早く目を通す。

「おい。それで、身体を作るのにどのくらいの時間がかかる?」
「最低限でも、丸一日は頂かないと難しいと思います。」
フォミクリーの研究を続けていたとはいえ、今現在のレプリカ精製はキムラスカ・ランバルディア王国とマルクト帝国の両国で禁止されており、ジェイドにはブランクがある。
ルークの身体になるものであるから、そんなに適当に作れはしない。
そう、簡単に物事が進みはしなかった。
「そんなに、かかるのか!?あいつ、もう消えるぞ!!」
ルークの灯火は、本当にうっすらとなっている。
もちろん切り替えも出来ないし、コントロールどころか回線も繋げられない。
波動が弱く、一番近い存在であるアッシュにさえ、ほとんど感じ取ることが難しくなっていた。





「貴方たち、私を抜きにして話を進めないで下さい。
ルークレプリカの身体なら、もう作ってありますよ。」
誇らしげにディストはそう言い、傍らに添えてあった白布を外した。
そこには確かに、アッシュでもありルークでもある存在の身体が、存在していた。
「よく、作りましたねえ。」
言葉はいつもの嫌味で固めたが、流石のジェイドもこれには驚かされた。
ちらりと見ただけで全てが大丈夫とも言い切れなかったが、三年前と同じ服を着た完璧なレプリカであった。
「保管データが破損していないか、確認したかったので作っただけです。
まあ、私のような天才でなければ、もっと時間がかかりましたけどね。」
腰に手を当ててのけぞるように自慢するのだが、その言葉は、誰も聞いていなかった。
話は進んでいた。



「この身体にあいつの魂を移すのは、どれくらいかかるんだ?」
「それは、フォミクリー技術を応用すれば簡単なので、少し装置をいじれば可能です。」
そう言いつつ、ジェイドは操作パネルへ釘付けとなった。
すさまじいタイピングで、プログラムを組み替えて行く。

「ディスト!つっ立てないで、手伝ってください。」
「えーい、もう…わかりましたよ!」

半ギレしながらやけくそ気味にディストは、ジェイドが操作しているパネルの対のパネルに向かった。
ジェイドからディストに、特に細かい指示はない。
しかし、そんなことはしなくても理解しているようで、ディストはジェイドと同じように操作をしてした。

ケテルブルクの二人の天才が、少しの時間だけだが結束した瞬間であった。














「準備が整いました。
これから、装置を使いアッシュの身体にあるルークの魂だけを、こちらのレプリカルークの身体に移します。 そちらに横たわって下さい。」
「わかった。」
指示された場所は、フォミクリー装置の上階にある円の上。
かつてルークが、同調フォンスロットを開かれた場所でもあった。
それは、それほど広い場所ではないが、既にレプリカルークの身体が横たわれていた。
ジェイドの指示に従い、アッシュはその身をレプリカルークと同じように横たえた。
ひんやりとする装置の感触が伝わる。

「装置はあくまでも補助です。生きる意志がなければ、成功はしません。
では、手を繋いでください。」
アッシュは、冷たいその手を繋いだ。
刷り込み教育さえもしていない、何の情報もない十七歳のルーク。
氷に包まれているように一切動きはしないレプリカルークは、変な感じでもあった。







「一つ言っておきます。人間は万能ではないし、創造主でもましては全知全能の神でもない。
だからこそ、与えられたちっぽけな命を精一杯生きる。それを忘れないで下さい。」

それだけを告げて、ジェイドは操作のスイッチを押した。









何かが、身体を強烈に走り抜けた。




















ルークは再び、命を与えられる





今度は、今度こそは………

アッシュに、望まれて生まれる



























アトガキ
次でお話的には、半分です。今後の話数が、この倍もあるというわけではありませんが。
2006/02/09

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