彼に出会うために 生まれてきた
降りしきる雪花は、ゆっくりと一定の速度で落ちてくる。
自然のみが君臨する海上だというのに、風もほとんどなく穏やかだった。
シャーベット状にさえなっている海があるオールドラントの最北端、アブソーブ ゲートは幸いケテルブルク港からそれほど離れていない。
それでも雪の影響でほんの少しスピードが落ちているようにも感じたが、急ぎの旅は思ったよりも時間がかからずに目的地へたどり着いた。
荒立つ接岸にタルタロスを乗り付けてフィールドにでるが、凍りつくような寒さのせいか魔物さえも姿を見せることはなかった。
深く積もる雪に足を取られながら、ゲート内へ入る。
入り口で見えるのは記憶粒子と交じり合う雪なのだが、それは以前に訪れたときより少なくみえた。
ローレライを解放し、オールドラントの第七音素総量は年々減少を辿っている。
いずれ、本当にここに降るのはただの雪のみになるであろう。
「やっぱり、中は魔物がいるんだな。」
創世歴時代の建造物である、独自の様式に包まれたアブソーブ ゲート内に一歩足を踏み入れると、遠目に魔物がうろついているのが見えた。
「自生していますからね。ちっぽけな人間なんかよりも、たくましい生物ですよ。」
生物の研究も多少していたジェイドは、感慨深くそう言った。
ジェイドは、魔物を劣化視していない。
人間が優れているだなんて、所詮はただの人間基準である。
彼らは彼らなりの世界を築き上げている。
そしてそれを壊していくのは人間であるのだから、至極勝手すぎた。
「そうだよな。なるべくなら、やっぱり戦いたくない。」
人間を手にかけるのは嫌だけど、それは魔物にも対しても同じことが言えた。
邪魔立てしなければ、本当はどんなものだって殺したくはない。
「では、慎重に且つ迅速に行きましょうか。」
タルタロスから降り立ったのは、ルークとジェイドのみであった。
ジェイド腹心の部下であろうとも、未だ何が起こるかわからないゲート内に同行させるつもりはなかった。
その分、魔物がいるとなると戦力的に不安になった。
身軽さを武器にして、最深部を二人は目指した。
長い長い螺旋階段のような道を降りていく。
遠方に見える雪は、細かくなって消え行くように儚かった。
アブソーブ ゲートに来るのは三回目であるからして、既に仕掛け等は解いてある。
ゲート内部はとても複雑な構造をしているため、そうでもなかったら時間をとられていたであろう。
セフィロト内さえもおり、ワープをする。
機能はまだ十分に作動していた。
下り着いた場所は、巨大譜陣のちょうど中央部であった。
「ジェイド。ちょっと、下がっていてくれ。」
ルークが希望するような結果だけが訪れるとも限らなかった。
ここまで来てくれたのでも十分であったし、それ以上巻き込みたくもなかった。
「わかりました。」
そうしてルークを中心部に残したまま、ジェイドは後退した。
ちょうど譜陣に足が掛からない位置まで下がると、そこで足を止めた。
全てが安全というわけでもないが、少なくとも以前にルークがローレライの宝珠を使用したときはこれで大丈夫だった。
前例が全てというわけではないが、例があるようなことでは本来ないため、駄目なら駄目でしかたないであろう。
ジェイドだって、腹はくくってあった。
ジェイドが離れたことを確認すると、ルークは巨大譜陣に向き直った。
費え消え行く第七音素にすがるなんて、どこまでも身勝手なのかもしれない。
だが、やるしかなかった。
無理やり出てきて以来、時は経っているというのに一度もアッシュに切り替わらなかった。
このままでは本当に彼が消えてしまう。
予感が実感により近づく。
そうなってしまったら、もう本当にどうしようもなくなってしまう。
アッシュもルークも。
身体を意識に任せられるように、全身の力を抜いた。
握っていた拳を開くと、しっとりした感触。
ほとんど戦ってもいないのに、手が汗をかいていた。
緊張という汗が湧いたのは、初めてだった。
するりとローレライの鍵を取り出し、そこから拡散能力のある宝珠だけを取り外した。
剣を戻し、宝珠を掲げる。
あの時の再来を促すように、宝珠の力を解放した。
自分自身も分解するかのように。
アッシュの元に………
その願いは叶った
おちる
おちる
おちる
奈落の底ではない確かな場所へ。
肉体的な痛みはないのに、吸い込まれるという感覚を得た。
そう、以前と同じ感覚を。
意識が落ちた。
目も開いていない筈なのに、望んだ場所である地核に居るビジョンが湧いた。
包み込むものはオーロラのようにさえ見え、自分をも存在しないような幻想さをかもし出す。
星の記憶が費えたのかは、わからない。
しかし、確かに前と同じような情景が浮かんでいた。
地核という場所柄だろうか、オールドラント全てが見える錯覚にまで陥った。
この場所で、ルークに身体の感覚はなかった。
あるのは意識だけだ。
それでも、生来のように重い瞳を開くことが出来た。
目が見える。
ああ………
彼の姿を確認することができる。
やはり彼はいたんだ。
存在をしていたんだ。
「アッシュ!!!」
ルークは、声を出すことが出来た。
名前を呼ぶことが出来るのが、こんなにうれしいと思うことはなかった。
見た目は同じだろう。
でも、全く違う。
自分と同じように地核にゆらりと浮かんだ
狂おしいほどに焦がれた、ただ一人の存在
アッシュとの接触を果たした。
アトガキ
短くてすみません。次、会話編。
2006/02/05
back
menu
next