[PR] 対外受精      ル フ ラ ン     
  とてもキレイに壊す方法  1














崩れ落ちたレプリカホドから無事に生還したアッシュとルークは、バチカルに戻ってきた。
今まで別々の道を歩みすぎていたから、今度こそ一緒にということになり、幾ばくもない日に



「好きだ。」
と、その想いを自覚して告白したのはアッシュの方だった。

その相手であるルークは、一瞬だけ目を丸くした後。
「うわっ。アッシュも、そんな冗談が言えるようになったんだな。」
驚きながら、笑って返事を返した。

それで、終わりになってしまった。



冗談で言ったつもりはないが、微塵も本気とは思われなかった。
本当にどうとも思っていない証だろう。
コイツにとって、俺はオリジナルでそれ以上でもそれ以下の存在でもない。
その関係の上にだけ成り立って、信頼されている。
心の奥底から、信頼している。
これを壊すことは出来ない。
この関係が満足とされているから、現状維持しかないし、望まれてもいない。

だから…あれ以来、俺たちの関係は何も変わりはしなかった。
















薄く開いた唇に、ゆっくりと口づける。
少しだけその感触を堪能すると、息苦しいルークの様子が見られたので、少しだけ離れる。
ルークのぎゅっと瞑っていたまぶたが薄っすらと開かれるが、それは完全ではなくて。
アッシュはもう一度、軽い口付けを施して、そのまま首筋や鎖骨まで落とす。

「好きだよ…アッシュ。」
頬を赤らめて、はにかみながらルークは言った。
そのまま身を任せるように、瞳を閉じたのを確認する。





そこで、夢はおしまい。











「またか…」
差し込む日があるわけではないのに、アッシュは自然に眠りから目覚めた。
頭だけを動かしてベッドサイドに置かれた時計を見ると、やや早いがどうやら一応は朝らしい。
小鳥のさえずりなどは聞こえないが、厚いカーテンの向こうは真っ暗ではないということだけがわかる。
横たわったベッドのシーツから利き手を出し、前髪を軽く上げてからそのまま視界を覆う。
そして、先ほど見た夢の内容に対して、眉間にしわを刻んだ。
夢は見ない性質だったのにな。
近頃はこれの繰り返しだった。



嫌な余韻に浸るアッシュの横で、ごろりと違う人物の寝返りが起きた。
シーツが、しわをつくりつつもそちらのほうへと引っ張られる。
アッシュはもう起き上がるつもりだったので、そのままベッドから降りようとして身をあげた。
「ふぁ………おはよう、アッシュ。」

そう…こんな夢を見るようになってしまったのは、間違いなくこれが原因だろう。
夢の中では、何度めちゃくちゃにしただろうな。

ふわりと無邪気に隣で眠っていたルークが、日の始まりの挨拶してきた。
「どうした?今日は、珍しく早く起きたな。」
こんな、内心を悟られてたまるものか。
アッシュはいつもどおりに皮肉交じりで、ルークに問いかけた。
「俺だって頑張れば、早く起きられるっつーの。」
アッシュの言うとおり、ルークの寝起きが悪いのはいつものことで、膨れつつ少しだけ反論する。
でもやっぱりまだ眠くあって、瞼をこすりながらの行動ではあった。
「いつもそうだと、俺も楽なんだかな。」
少し呆れた様子をわざわざ見せながら、アッシュは言った。
こうやってファブレ公爵邸にて二人は再スタートを切ることになったのだが、“ルーク”の部屋として扱ってきた場所はひとつしかなかった。
今まで、“ルーク”は一人であったのだから、それは当然といえば当然で。
別にアッシュはそれほど思い入れがなかったから、ルークにその部屋は譲って自分は余っている客間あたりで寝起きすればいいと思っていたが、駄々をこねられた。
優劣がつくのが嫌だ…と。
同じ部屋で生活するなんて冗談じゃない。とアッシュは思ったが、両親の押しもあり仕方なく。
その部屋に、ダブルベッドを無理やり押し詰めた。
元々広い部屋ではなかったのでぎゅうぎゅうだが、ルークは喜んだ。
それから、アッシュがルークを起こすことは日課となってしまった為の言葉だった。
「う゛……努力はするよ。今日は城で晩餐会があるから、特別早く起きたけど。」
自信がなさそうにルークは答えた。
先ほどは反論したが、確かに起こされなければ早く起きれる性質じゃないことは、認めよう。
生まれてから七年間は、だらけて生活しすぎていた。
永きに渡る生活習慣はそう簡単に変わりはしないから、何とかしようとは思っている。
その一歩でもある今日となった。
「そうか。だから、昨日は早く寝たのか。」
「だって、俺。軟禁生活していたから、正式な晩餐会とか始めてなんだよ。緊張する。」
バチカルに戻ってきたということは、これからは王族の一員として公務に携わっていくということである。
世界を救った英雄として名はあったが、ルークもアッシュも正式には認知された存在ではなかった。
だから、お披露目…という形での晩餐会が、バチカル城にて早々に開かれることになった。
民衆に認められることも大切だが、王族としてまずは連なる貴族たちに認められなくてはいけない。
どちらかというと苦手な部類に入る、社交界へのデビュー。
失態を犯さないかとルークは心配だった。
「そんなに緊張する必要はないと、思うが。適当に愛想を振りまけばいい。」
そういえば、ルークは初めてだったな。とアッシュは思い当たった。
アッシュは物心着く前からそういった場には出ていて、いずれはキムラスカ・ランバルディアの王となるべく定められていたから、今更でもあった。
久しぶりなことには変わりはないが、別に緊張をするようなことはなかった。
アッシュのアドバイスは聞いていたのだが、それでもルークは気張っていた。仕方がない。

そんなルークを見つつ、別に何も起きないだろう…とアッシュは高をくくっていた。















その予想は大方当たり、晩餐会自体は何事もなく進行していた。





「つっ、疲れた…」
時計など見る間もなく目まぐるしく経過していった時間。
挨拶に来る来客がやっと途切れたので、柱の影でルークはつい本音が出た。
こんな風にちやほやされるのは慣れてない。
今までと、あまりに違いすぎる。
そして、バチカルに貴族ってこんなにいたんだな。と感心する。
軍属も兼ねている人は多少なりとは見知っていたが、それ以外の人物はさっぱりだった。
今まで無知しきすぎたから、いけなかったとも思う。
本当は顔と名前が一致するようにきちんと覚えなければいけないのだが、これだけ老若男女問わずにこられると、頭が混乱したままだった。
それに、滅多に着慣れない正装は、仕方がないがルークの疲労を増させていたのだった。



「ルーク。」
「わっ!……なんだ、アッシュか。良かった。」
背後から前触れ泣く名前を呼ばれて、飛び跳ねて驚いた。
でも直ぐにそれは、アッシュだとわかって安堵をする。
「そんなに驚くことはないだろう。」
別に驚かすつもりもなかったので、その反応の過敏さにアッシュの方が驚いたくらいだった。
本当に表情豊かなのがルークである。
「だって、気が緩んでいたからさ。」
「それくらいでちょうどいい。たまに、無理に笑っているのがバレバレなときがあったぞ。」
自分にも客が来ているのに、つい観察してしまう。
処世術にさほど困っていないアッシュは、余裕が出来るたびにルークのほうを見てしまっていた。
「だってアッシュと釣り合うようにって努力をすると、どうしてもそうなるんだよ。」
そういえば、顔の筋肉が引きつっているようにも思えた。
ちょっと頬を揉んで緩めてみる。
それにしてもアッシュとは一応は同じ顔だし格好だってそれほど変わらないのに、どうしてここまで違うのか。
洗練されたアッシュを改めてみた感じが、ルークにはした。
背伸びをするように同じようにしてみるが、なかなかなれないとも感じ取った。



「おまえは、おまえでいればいい。」
自分なんてたいした人間ではない。
心の底から思っていることなんて、滅多に表には出さない。
今だって、こうやって表面をつくろってルークと接している。
この関係を壊さないように、一番大切に守っているのはアッシュだった。

「そう言われるほうが何だか難しいな。」
場を重ねればそのうち慣れるかな、と呟きながらルークは思った。





「そういえば、アッシュはどうして俺に声をかけたんだ?」
今までずっと別々に客の相手をしていて、こうやって会場で二人っきりで話すのは、実はこれが始めてであった。
「ああ。父上からの伝言を預かってきてな。区切りがついたら、各自屋敷に戻って休むようにだそうだ。」
晩餐会というべき食事会はとっくの昔に終わっていて、今は雑談を楽しむパーティーと化していた。
それも、随分な時間が過ぎていて、ちらほらと客足も減ってきて、まばらになっていた。
実質はお開き状態であるから、どのタイミングで戻っても大丈夫ということでもあった。
「じゃあ、もう帰っても平気かな? さすがに、今日は疲れたから。」
「まあ、初めてにしては上出来だったから、これくらいで抜けても大丈夫だろう。
外は雨が酷い。馬車を回すように手配するから、入り口で待っていろ。」

王城からファブレ公爵邸までそれほど距離が離れているわけではないが、あいにく今日の天気は芳しくなかった。
濡れることを危惧して、アッシュは御者を呼ぶためにルークと別れた。
















漆塗りの厚い扉を開けて会場より廊下へと出たルークは、早速迷っていた。
迂闊だった。
本当はナタリアあたりに挨拶してからとも思っていたのだが、あちらは開催者でありルークやアッシュより数段忙しい立場である。
いまだ波のようになっている人垣を分けることは出来ずに、入り口までの道がわからなくても何とかなるだろうと思っていたのが運のツキであった。

「いつも、城に入るときはみんなと一緒だったしな。」
そう呟いても、広い廊下に冴え渡るのは自分の声のみで、人っ子一人姿は見えない。
バチカル城はかなり何度も訪れているが、やはり城という名前がついているだけあって、構造は複雑で、特に今日のような晩餐会を開くような場所は滅多に立ち入らないから、余計にわからなくなっていた。
普段なら、メイドの一人や二人見えるのだが、時間も相当遅いから、今日はそれさえもかなわない。
おまけに外の天気は、最悪であった。
雨が土砂降りといっても過言ではないくらい、激しく降り続いている。
朝から曇り空で天気が悪いなとは思ってはいたが、晩餐会中は真紅のカーテンが引かれていて、話し声でざわついていたから、今まであまり意識しなかった。
当然、月も星も見えるわけがなく廊下は薄暗くあった。
夜の照明は部屋の入り口にランプが掲げられている程度であるのは、仕方のないことであろう。
時折、雷の響く音が高らかに鳴り、光を落とす。
ある意味、一瞬だけ眩しいときはあると、言ったところだろうか。





来た道を戻るのも良くわからなくなってしまって、もはや適当に歩いていたルークの横に中庭が差し掛かった。
普段なら焚かれている篝火は、豪雨のせいで見ることは出来ない。
しかし、この場所は歩いた記憶があって、やっと見覚えのあるところに着いたと安堵したところに。



「ルーク・フォン・ファブレだな。」
姿も見えないどこかの方向から、名前を不自然に呼ばれた。
散々暗い中を歩いてきたから、ルークの感覚は少し鈍っていてだから気がつかなかった。

「そうだけど…」
とりあえず肯定を促すような返事を返した。





途端、鼻孔をつく悪臭がルークを襲った。

ふっ……と、身体の力が勝手に抜けて、床に隙間なく敷き詰められた絨毯に身体が沈もうとする。
そこで、鼻孔に布地を当てられて何かを嗅がされたという事に気がついたが、死角からやってきた人物に対しての認識は出来なかった。












意識するまもなく、ルークは昏睡に落ちてしまった。
























アトガキ
ブラックアウト。
2007/03/01

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