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  サクリファイス  6










今日で最後の痛みになるかもしれないと思ったんだ。









いつものように滞りなく繋がる回線から、始まる。
区切りをつける超振動を使い一通りの作業を終えて行き着くと、ルークの元にアッシュが声をかけてくる。
《悪いが、俺の方はもうすぐ時間だ。》
誰もが待ちかねた一歩がやってくる合図がした。
出会える日が、とうとう来たのだ。
今日こそ二人はユリアシティで落ち合う約束を叶える。
《ギンジが迎えに来てくれるんだよな。気をつけて。》
僅かに高鳴る胸を抑えながら、ルークも言葉を送る。
《そっちは、一人で上に行くのだろう。大丈夫か?》
構造的にルークのいるアブソーブゲートの方が入り口まで難解に出来ているため、これは誰でも心配する事項であった。
ルークからしてみれば特別に手ごわい魔物が生息しているわけではないが、一人きりで抜けていくのは万が一という事もある。
《平気だって。伊達に毎日稽古しているわけじゃないぜ。腕はにぶってないよ。》
ぐっと力を入れるポーズなんてしてみて、主張した。
ルークが普段居る最深層には魔物さえ寄ってこないが、だからといってそれに甘んじてはいない。
暇だという事もあったが、剣の手入れもきちんとして備えてある。
《それならいいが、俺の方が先に着きそうだ。向こうで待ってる。》
《じゃあ、会おうな。》
少しのアッシュの笑みがルークにまで伝わると、回線の繋がりが途切れた。

さあ、ルークの方も急ぐ。
待ち遠しすぎるほどに、とても久しぶりにこの場所から動ける。
与えられた庭は一人きりには広すぎたが、誰も居ないのでそれもうれしい事ではなかったから。
必要最低限の軽い荷物といつも使ってる手馴れた剣を持つと、軽快に足を踏み出す。
「アストンさん。後は、お願いします。」
上のフロアに行く前に、ルークは頼んだ。
「任せろぞい。」
ほっほっほっ…と笑いながら、蓄えた白い髭を揺らしてアストンは示唆する。
先陣の指揮を任されているアストンは、老体に鞭を打ってだなんて微塵も思っておらず、逆に元気過ぎて周囲が心配するくらいだ。
実はアストンだけではなく、このパッセージリングのエリアには今、十数人ほどの人がいた。
ベルケントとシェリダンの共同チームと、ダアトから派遣された第七音譜術士(セブンスフォニマー)だ。
こんなに一致団結したのは一つの目的のためで、パッセージリングを取り囲むように円陣となって、既に規定の配置についている。
その役割はルークの代わりに制御をするためだ。
といっても並みの第七音譜術士(セブンスフォニマー)では、超振動は起こせない。
そこで主力として活動することになったのは、疑似超振動発生器だった。
ホドで使われたのとは違う平和への道へと使われていくことになるとは思いもしなかったが、提案をしたのはスピノザだった。
スピノザはルーク・アッシュと同じく、ベルケンドで津波に巻き込まれてしばらく行方不明だったのだが、軍の救援活動によって九死に一生を得た。
彼こそが第一の物理学の専攻者でもあり天才。
すぐさま、障気除去のプロジェクトチームと合流して、疑似超振動発生器を使う事を段階の一つとして提案したのだった。
それまでは障気が安定していなかったが、ガタがきていたタルタロスを再び投入したら、地殻の振動が少しは弱まった。
タルタロスの恩恵を得て、耐用年数があがる。
そうして、今日に至るまで何度か疑似超振動発生器でパッセージリングに慎重に慎重を重ねて付加をかけて、測量も随時おこなった。
さすがにルークやアッシュが使う超振動には劣るが、間隔を狭くし随時器械を活動させる事で何とか一定の基準まで成功することが出来たのだ。
不安定要素はないとは言い切れないが、それでも改良を重ねて安心して任せられるくらいまでにはなった。
アッシュとルークの超振動を直接加えなくても障気が漏れ出ることはなかったので、負担は軽くなる。
補助になっていたルークが初めて抜けることになるのだが、ここまですれば大丈夫だろう。
それはもちろんアブソーブゲートだけではなく、ラジエイトゲートにもスピノザを中心としたチームが派遣されて同じことがなされていた。

ふと、ピオニーと共にここまで来てくれた時の、ジェイドの苦々しい表情を思い出す。
「せめてあなた方二人ではなく、他の第七音譜術士(セブンスフォニマー)でも代わりができれば…」
「これで平定が守られれば別にいいよ。」
と、ルークは答えたが、尽力をされた。
時期を見計らって、一度限りとはいえど再会が果たされる。



「みんなが待ってるぞい。」
そんなことを思い出し少し感傷に浸ってしまったルークに、アストンの声がかかる。
そうだ。馴染みある仲間も、今日のためにユリアシティに集まってくれているのだ。
「行って来ます。」
「ここは任せて下さい。お気をつけて。」
移動するゾーン近くにいた、第七音譜術士(セブンスフォニマー)の一人が声をかけてくれる。
今までローテーションを組んで何度か来てくれた、若い青年だった。
他にも周りの人たちが、温かい目で見てくれる。
本当に多大な人々に尽力を諮ってもらっていることをかみ締めながら、きちんと礼をしてルークは円蓋にも覆われない天井を目指して急いだ。

「こちらも、急いで切り替えの準備を始めるんじゃ。」
ルークが行ったのを確認したアストンは、目を細めて低い声で指示する。
背後には置かれた装置の数々が待ち受けており、動力源の第五音素が加えられて、準備は整っていた。
「「「はい。」」」
返事が重なると、譜業と譜術の共同作業がいとなわれたのだった。









入り口に近づくほどに、どんどん太陽に近くなってくる。
待ちかねた外に出ると、淡い硝子からもれたような光が雪の照り返しで白くルークを包む。
照りつける太陽という本物はこんなにもまぶしい。
立ち眩みがおきるように、一瞬目が眩んで足が淀む。
下に持ってくるまでには解けてしまうので、雪を踏みしめる音を聞くのも久しぶりで、歩く。
随分と走って急いでしまった。
時計を確認すると、ノエルとの待ち合わせ時間より少し早くついたのを知る。
額にわずかに滲んだ汗をぬぐい、息を整える。
本当に寒さに吐く息が白くあるが、新鮮な空気を肺に送り込み、世界を実感した。

顔を上げると、青空に一点が現れる。
点はだんだんと大きくルークに迫り、やがて目の前に下りてくる。
ノエルの操縦するアルビオール二号機が飛んできたのだ。
アルビオールの起こす風によって、ルークの髪が軽く舞い上がる。
それを少し直しつつコクピットを見ると、たまたま目があったノエルがお辞儀をしたので、反射でお辞儀を仕返した。
完全にエンジンがとまると、昇降口が自動でゆっくりと音を立てて開いた。
たしか前に自分が乗ったときはこんな機能はなかったはずで、進化していることにルークは若干驚く。
「ご主人様ー!」
扉が開くと同時に飛び出してきた生物をルークは驚きながら、受け止めた。
衝撃は軽く、すっぽりと両の手に収まる。
「ミュウじゃないか。」
「会いたかったですの。」
懐かしくルークが名を呼ぶと、当のミュウはいつもどおりにソーサラーリングをもって飛び跳ねた。
「俺もだ。」
ミュウはチーグルの森でひっそりと暮らしているので、アブソーブケートの中まで来る機会は一度もなかったので会うのは相当久しぶりだ。
元気にしていたようでよかった。
変わらない様子にルークは微笑みを覚える。
「ルークさん、お久しぶりです。」
タイミングを見計らったように、ノエルが歩み寄る。
「わざわざミュウを拾ってきてくれたんだな。ありがとう。」
「とても会いたがっていたので、ユリアシティで合流する前に少しチーグルの森に寄ってこちらで。」
なんでもないかのようにノエルは答える。
いつもアルビオールで呼びつけてしまって申し訳ないという気持ちがあるのだが、その反応もいつもどおりだ。
「今日は本当にありがとな。」
今回も別にアルビオールでなくてもユリアシティに向かうことはできたのだが、ギンジとノエルが進んで手を上げてくれたので、早く着く事がかなったのだ。
「いえ、このくらいは手伝わせて下さい。皆さん、首を長くして待っていますよ。」
アッシュとルークに掛かる世界の重みを感じつつも、ノエルは答えた。
本当に皆と揃って会うなんて夢のまた夢かもしれないと、ルークは感じる。
「兄は二時間ほど前にラジエイトゲートに到着したそうです。私たちも急ぎましょう。」
「ああ、頼むよ。」
促されるままルークは、ミュウを持ちながらアルビオール二号機に乗り込む。
かつて世界を飛び回るほどの移動中はほとんどこれで移動したから、ルークにとってはそれほど珍しい事はないが逆に懐かしい。
それでも改良を重ねているらしく、外装も内装も少しずつ違う。
座席に座り込みベルトをすると、ミュウは膝に置いて手で抱える。
以前のミュウは定員の関係で道具袋の中に隠れていることも多かったが、今回は特等席だ。
「では、出発します。」
準備が整うとエンジンがかかる鈍い音がして、宙を浮く感覚がおとずれる。
高度を上げると、みるみるうちに飛び立ったのだった。





たまに気流によって機体が落ち無重力状態になったり、気分が悪くはなったりはしなかったが、喜怒哀楽があるようになんだか感じた。
安定軌道にはいるとベルトを外しても大丈夫という声を受ける。
「すごいですの。ミュウウングより全然高いですの。」
窓際に吸い付くように見つめるミュウは、試しに自らも飛んでみたりして、改めてはしゃぐ。
数時間もすればユリアシティに着くと予め伝えられていたが、飽きる事なんてもちろんなく、その時間も早く過ぎた。
自動操縦に切り替えたノエルが会話に加わると、それは更に増す。
ルークとノエルとミュウという少し変わった組み合わせであったが、話は弾む事しか知らないように進んだ。

海上ばかりを走行していたが、やがて未だにゆるやかに移動中のフォレス諸島が目下に見えた。
世界の中心に近づいていることを確認する。
「もうすぐユリアシティにつきますよ。」
話を区切って座標を見ながら、ノエルは言った。
言葉を受けて南の空を見ると、豆粒くらいの大きさだが塔のような建物が見える。
アルビオールのスピードならば、確かにそれほど時間は掛からずに到着するであろう。
いよいよだ…とルークはかみ締める。
あの場所に、皆がいる。
そして、アッシュがいる―――
後はその時を待つだけとなり、ルークは座席に腰をかける。
ノエルの方も着陸態勢に入るため、コックピットに戻って操作官を握り始めた。
そんなときだった。



「ご主人様、昼間なのに流れ星が見えますですの。」
ミュウがルークの服の裾を引っ張りながら、小さな手で指し示して主張した。

どくん
かつてないほどにルークの心臓が高鳴った。
あいにく方向が悪く、ノエルは目視するのは憚られたが、ルークは見た。
その黒点を。
まさか考えたくないがと思いつつも、目視で追いかけるが音速にも近いので追いかけるのは難しい。
「ノエル。悪いけど、機体を下降させてくれないか。」
もう見失ってしまったが上空にいるので、雲に隠れた。
どうなったか気になりすぎて、ルークは急いで頼んだ。
「わかりました。つかまって下さい。」
本格的な下降始まる前に、ルークは壁にかけてあった双眼鏡を手にしようとする。
手がもたついて一度落としてしまったが、急いで拾い上げた。
降下は一途を辿り、やがて厚い雲の下へと抜ける。
まとわり付く雲の断片が完全に風に飲み込まれると視界があける。

ルークが着眼したのは海の中の、ただ一点。
あがる飛沫の高さは何十メートルにもなる、悪夢の再来だった。
それは双眼鏡など使わなく肉眼でもしっかり確認出来る規模で、ルークはこの様子をまた見てしまった。
こんな光景を前にも見すぎて、脳裏に焼きついて仕方がない…隕石が落下した現場を。



「ルークさん…」
「ユリアシティに急いでくれ。」
アルビオールでは空中に停止は出来ないので、水しぶきの上空をゆるく旋回し繰り返していた。
心配そうに声をかけてきたノエルに、そう答えるのが精一杯だった。











やがて、世界は暗くなる。
障気が再び、薄く発生してきたのだった。




















アトガキ
2007/09/21

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