ND2018年・ノームリデーカン・レム・27の日 外殻大地降下が成功してアブソーブ ゲートから無事に帰ってきて、もうすぐ一ヶ月が経つですの。 ボクはご主人様と一緒に、バチカルのご主人様のお屋敷に来たのですけども、その間ずっとご主人様は塞ぎ込んでいますですの。 ようやく今までの監禁生活から解放されたのですのに、用が無ければ殆ど部屋から出ないですの。 最初に一緒に戻ってきたガイさんが、グランコクマに行ってしまってからは特にそれがひどいですの。 今もご主人様はベッドに腰掛けていて、動く気配がないですの。 このままじゃ、とっても心配ですの。 「ご主人様! 一緒に、お散歩に行きましょうですの。」 気晴らしにボクがそう提案しても 「悪いな。今はそんな気分じゃないんだ。」 と、申し訳なさそうに言われたのですの。 声もとっても沈んでいますですの。 「みゅぅぅぅ…」 ご主人様は悪くないけど、何も出来ない自分がふがいないですの。 いつまでも部屋にいてもどうにも出来ない気がして、ボクはご主人様の自室を出たですの。 何かご主人様が元気が出そうなことは……と、考えても考えても良い案が思いつかないですの。 ボクはやっぱり駄目なチーグルですの。 いったい、どうすればいいのですの? そうやってふらふらと歩いていたら、ボクはメイドさんたちの休憩室の前に行き着いてしまったみたいですの。 いつも礼儀正しいメイドさんたちですけど、ボクの姿が小さくて見えなかったみたいで、いつもの感じとは違って自然におしゃべりをしていたですの。 「今日届いた手紙の中に、ルーク様宛の手紙があったのだけど、どうしようかしら?」 「あら、ルーク様宛の手紙は旦那様に一度御確認して頂くことになっているじゃない。どうして、悩むの?」 「それが、差出人名がないのよ。それ以外は不審な箇所はみられないのだけど…」 「それなら一度、執事のラムダス様に聞いてみたら?」 「そうね。そうするわ。」 「いけない!もう、休憩時間が終わるわ。」 「本当だわ。この手紙は、とりあえず机の上に置いといて……急ぎましょう。」 そんな会話をして、慌ててメイドさんたちは別の部屋に行ってしまったですの。 「…ご主人様宛のお手紙? これですの!きっとご主人様は手紙を待っているですの!!」 ボクの身体が小さくて本当に良かったですの。 わずかに開いた扉の隙間を力いっぱい押すとギリギリ通れる分くらいのスペースが開いたから、何とか休憩室に入ったですの。 そして、とっても頑張ってその手紙を持ち出すことに成功したですの。 ボクは偉いですの! 折角の手紙を引きずらないようにしながらも、急いでご主人様の部屋に戻ったですの。 「ご主人様ー!!」 ボクがいつものようにそうやって名前を呼ぶと 「どうした、ミュウ? おまえ、いつも元気だな。」 と褒めてくれて、ふさぎこんでいた顔を少しだけ上げてくれたですの。 掴みも成功ですの。 「お手紙ですの!!」 ボクは自信満々に言ったですの。 ご主人様に届かないとわかっているど、なるべく取れるように手を精一杯伸ばしたですの。 「ん…俺宛なのか?」 ご主人様は少し首をかしげながらも、白い簡素な手紙を受け取ってくれたですの。 任務は果たしたですの。 「メイドさんたちが届いたって言っていたですの。」 さっき聞いたことをボクは話したですの。 「そっか、でもこれ差出人名がないな。」 嬉しそうにしつつもそれを確認して、ご主人様は開けるのをためらっているですの。 勿体無いですの。 だからボクは 「ご主人様宛なんですから、大丈夫ですの。開けてみてくださいですの。」 と、後押しをしたですの。 そうしたら納得したように「そうだな…」と頷いてくれて、ペーパーナイフを使って手紙を開いてくれたですの。 「何て書いてありますですの?」 ボクはとっても気になって、わくわくして聞いたですの。 ティアさんかも、アニスさんかも、ジェイドさんかも、ガイさんかも、ナタリアさんかも、しれないですの。 皆さん、今まで手紙を送ってこなかったほうがおかしいですから、誰から届いてもいいのですの。 待ちかねた、次の瞬間に 「何も入ってない…」 そう呟く、ご主人様の声が落ちてきたですの… そして、びっくり。 ご主人様が泣いているのですの! 差出人が無くて中身も何も入っていないということは、もしかしていたずらだったですの? そういえば、ご主人様はお屋敷に戻ってきたけど、アッシュさんのレプリカということで周りの皆さんの視線が冷たかったですの。 せっかくご主人様が喜んでくれると思ったのに、さらに落ち込ませてしまったですの。 余計なことをしなければこんなことにならなかったのに、最悪ですの。 逆効果ですの。 「みゅう……ご主人様。ごめんなさいですの、ごめんなさいですの!」 ボクは、ご主人様にしがみ付いてただ謝るだけしか出来なかったのですの。 「違う、違うんだ。」 しばらくそううるさくしていたら、ご主人様が戸惑うように否定し始めたですの。 「なんでだろう……良いとか悪いとかそんなことはわからなくて、自然に涙があふれた。だから、意味なんてわからないんだ。」 自分自身に確かめをかけるように、ご主人様は口にしたですの。 とどめなく漏れいれるその涙さえも拭わない様子でしたですの。 「ありがとな、ミュウ。俺、少し頑張れそうだ。」 そうして、ご主人様はボクに向かってそう言ってくれたですの。 ボクは、とっても久しぶりにご主人様の心の底から明るい顔を見れたですの! 理由はわからない…でも 本当に良かったですの! ご主人様が元気でいてくれるだけで、ミュウは幸せですの!!! ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ ルークは、一ヶ月ぶりに自分の意志で動いている気がした。 ぼさっと、しているわけにはいかない。 やることがあるのだから。 たとえなかったとしても、見つける。 ファブレ公爵の指示で執事であるラムダスのところで止められていた手紙を、ルークは読む。 ティアとガイとアニスから、それぞれの近況報告を兼ねた手紙が来ていた。 皆、相変わらずのようだけど、それでも前に進んでいることが窺い知れた。 俺は何も変わっていなかった…… そして 「アッシュからは、ないか………」 期待しないほうがいいとわかっているのに、それでも思ってしまった彼からの音沙汰はやはり無い。 よく考えれば、手紙などするぐらいなら、回線を繋げば一瞬だ。 しかし、それさえもなかった。 代わりに、その名前をそっと呟いて、噛み締める。 「やっぱり、あの手紙は…」 奮起することの出来た、きっかけ。 そっと、服の中に大切にしまってある。 答えは知らなくてもいい。 確かめたいのなら、前に進むのだから。 その足を一歩踏み出すと、水上に波紋が広がるようだった。 アトガキ ミュウの日記なら、“ひらがな”がデフォルトでしょうが、読みにくいので漢字変換しました。 2006/11/24 back menu next |