[PR] ダイヤモンド      ル フ ラ ン     
  生きとし生けるものが当たり前のように与えられている権利












しんしんと降り続ける雪が、ただひたすらにルークに積もる。
そっと、目の前に手をかざすと、雪の結晶がゆっくりと垂直に落ちてきた。
その指先へと舞い降りるとすぐさま消えてなくなってしまう。
そのまま、握り締める。
なんて、儚い。
それでも彼らは降り続ける。
一瞬だけのまほろばを見せるために。

今ルークたちがいる、銀世界と名高いケテルブルクにとって、雪こそがもしかしたら最大の行楽物なのかもしれない。
地元の人にとっては慣れているのであろう整えられた道は、雪が端に寄せられているので、滅多なことで足をとられたりすることはない。
もう随分とぼんやりその街並みを歩いたルークは、髪に累積した雪を払う様子も見せなかった。
行き交う人々がそんな様子をみれば、普通ならば何か言ってくるのだろうが、今日だけは違った。
みんな、それどころではない雰囲気でいっぱいだったから。








「ルーク。まだ、ホテルに戻っていなかったのか?」
「ガイ…」
朦朧としていたところを後ろから呼び止められたルークは、そちらを振り向いた。

「わかっていると思うが、明日の朝にはアブソーブゲートに立つんだぞ。なるべく早く戻れよな。」
改めての確認の言葉をガイは出した。



そう、明日こそ決戦の日。
プラネットストームの終点で、自分たちもヴァンを倒して、それで終わりにしなければならない。
最後…これが終われば。
アルビオールの浮遊機関が凍り付かなければ、今すぐにでもアブソーブゲートに向かわなければいけないくらい緊迫した状態なのに、与えられた時間をルークは持て余していた。
今まで本当に息継ぎも出来ないくらい全力疾走をし続けていたから、いざ自由行動ということになっても、特にやることが思いつかなかった。
思えば、軟禁されていた屋敷を出てから気を休めるような機会などそうそうなかったから、こうやってただ町並みを歩くことぐらいしか出来なかった。

そして、ルークは特別かもしれない今日という日を知った。





「………今日は、クリスマスなんだな。俺、ホワイトクリスマスって初めてだ。」
街の方々に彩られたイルミネーションの光、子供を中心に賑わう人々。
クリスマスムードが、いたるところにあった。
それを覆い隠すぐらいよく降る雪が建物や木々に雪化粧をしているから、ルークには新鮮であった。
「そういえば、そうだな。まあ、バチカルは滅多に雪は降らないからな。」
バチカルだけではない。
比較的気候のよい場所の多いオールドラントにおいて、この地だけは特別の別世界のようにあった。

「この街に住む人にとっては毎年のことなんだろうけど、俺にとっては神秘的だなって、思った。」
幼少時代をここで過ごしたジェイドあたりにそんなことを言ったら、当たり前すぎる感覚をもっているだろうから、かえって驚かれたかもしれない。
ケテルブルクに立ち寄る機会は、これで二度目。
その日がクリスマスだなんて、もしかしたら巡り合わせかもしれない。



「せっかくのクリスマスなんだ。ルークは、今年は何が欲しいんだ?」
ふとした合間にガイはそう尋ねてきた。
何度かサンタクロース役を仰せ付かったこともあるから、これは毎年聞いてきたことだった。
「俺、もう子供じゃねーぞ。さすがにもう信じてねえっつーの。」
ガイの冗談だと思った言葉に、ルークは膨れて返した。
確かに昔は信じまくっていた。それは、認めよう。
屋敷に軟禁されていると、季節感覚が薄く代わり映えのない日ばかりが続く。
カレンダーなんて、正直見たくもなかった。
だからイベント関係は比較的重点が置かれて、特に大行事であるクリスマスやら誕生日やらは周りがお膳立てをして色々と賑やかではあったし、子供ながら楽しくもあった気がする。
こうやって屋敷の外に出る機会がなければ、その気持ちを持ち続けたまま結構いられたかもしれない。

「おまえはまだ七歳児なんだぞ。普通の子供なら、まだサンタクロースを信じていておかしくない年頃だ。本当に欲しいものはないのか?」
珍しくガイが冗談ではなく追い討ちをかけてきた。
もしかしたら、こんな日だからこそ、こんなことを聞いてきたのかもしれない。
明日は生きるか死ぬかの瀬戸際である。
突然の間際ではあるが、叶えられるようなものがあるなら、叶えてやりたくもあった。



「いきなりそう言われても、思いつかないな。」
ワクワクしていた頃もあったから、そういうときは色々と考えこねていたのだが、漠然と突きつけられても咄嗟には出てこなかった。
そもそも、贅を尽くせる屋敷でのクリスマスプレゼントは、ルークの希望がいつも叶っているものばかりだったし、それ以外のものでも余程無理難題でなければ、言えば直ぐに手に入れることが出来た。
だから、改めて欲しいものというものが、ルークには元々なかった。

「うーん……やっぱり世界平和とか。」

やっぱり明日のことを思うとこれが、ぽんっと出てきた。
アクゼリュスの罪を償うことは、一生しきれないだろう。
それでも世界が平和になることに尽力できれば、その一歩くらいは認めてもらえるかもしれないから。
これが一番に願うべきものだと思ったし、思わなければいけないことだった。



「おいおい、似合わないぞ。一年に一度だけの特別な日なんだ。自分のために使えよ。」
確かにガイはアラミス湧水洞で、人助けしろ。世界中幸せにしろ。とは言った。
しかし、自分が幸せでないのに、人を幸せに出来るはずがない。
ルークの本当の気持ちを、ガイは引き出したかった。





「本当に自分のために使っていいなら、それこそ叶わないものしかないよ。」



あえて望むような、生半可なものではない。

でも、ルークはそれを許されているとは到底思わなかったから、これ以上を望んではいけないと思った。








その名を出すことも、しない。出来ない。


















ようやくルークは、ホテルへと戻った。

夜近くこともあり時間も迫っているため人も少なく、ホテルマンの案内で暖かく作られた部屋に通された。
最高級ホテルに恥じない確かな部屋造りに、弛みたくもあったが。
明日への最終準備を整えて、寝るのを待つのみの状態となると、ベッドへと寝転ぶ。
あえて引いていない重厚なカーテンのおかげで、月明かりに反射する雪が照って綺麗だった。
夢心地に浸るように、外を見続ける。

早く寝なければいけないのに、いろいろと考えてしまって、かえって寝付けなかった。
むしろ、眠るのが怖かったのかもしれない。
目覚めたらそのままアブソーブゲートへ直行することになり、生死をかけて戦わなければいけないことも要因の一つではあったが、それ以上に。
クリスマスが終わるのが惜しかった。

どうせ目が覚めても何もないのだから。変わらないのだから。
そして、叶いもしないことを考えてしまいたくなる。

レプリカである自分が、今まで人並みのように色々と与えられていること自体が本筋から外れていたとさえ思う。



「駄目だ…嫌なことばっかり考える……」
寝返りばかりうってしまって仕方ないから、脳内を漂白してなんとか寝ようと躍起になった時。








頭に、全身に、あの独特な音が反響した。
幾重にも折り重なるように鳴り響き続けるその音は、何度目かではあるがそう慣れるものではない。



「……これは……っ!」
顔をしかめつつも、ルークはベッドから起き上がった。

探るように意識を集中させると、冷たい夜の窓の外から、確かな彼の存在が伝わり感じとった。



もしかして…

ああ、本当に胸が高鳴るというのは、こういう時のことを言うんだろうな。
鷲掴みにされた心臓を左手で無意識に押さえて、ルークは部屋を出た。













最後かもしれないから。

だからこその願いが、あった。

















アトガキ
本当のこの日は、イフリートリデーカン・シルフ・27の日ごろです。すみません。
2006/12/25

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