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  盲目的な箱庭  6












そして、終わりの始まりの日
ND2018・ノームデーカン・レム・1の日





いくら日が高くあり続けようが、暗闇という媒体に隠れれば意味のないこと。

「ルーク、入るぞ。」
いるとわかっていたが、自室をノックしてもろくな返事が返ってこなかったため、アッシュはそう断ってから中へ入った。
壁一面にはめられているいつもの大ぶりの窓は見えることなく、不釣合いな分厚いカーテンに隠れている。
そのおかげで昼間だというのに、僅かにこもれる隙間光ぐらいしかじんわりとした部屋内には見受けられなかった。
ランプさえも付けておらず、ルークはベッドにただ座っていて、別段何かをするという様子もなかった。
どこでもいい、一点を見つめて、引き閉じこもるように随分と呆然としていた。

「あ、アッシュ…返事しなくてごめん。」
扉が閉まる音より、人が来たという気配の方にだけの反応があって、ルークは謝罪した。
重く顔を上げて、扉の方へと身体を動かす。
「大丈夫か?完全に気にするなとはいわないが、ガイも白光騎士団もおまえの身を護るのが勤めなんだ。折角無事だったおまえが、ずっと沈んでいるようでは本人たちにも気を病むぞ。」
数日前に、カイツール近くで起きた襲撃事件の内容を振り返りつつ、アッシュは言った。



ルークの乗っていた馬車の後ろを警護していた白光騎士団は全滅で、土色の地面が更にどす黒く染まって、ガイもルークを無理やり庇って負傷をした。
そこまでの被害に及んだということは信じられないことで、ルークにつけていた護衛はそんなに柔な人選ではなかったから尚更だった。
正直、アッシュの耳にさえ入っている事柄…以前にも何度かルークが襲撃されることはあったが、それは未遂に終わらせるようにするのが周囲の役目であり、それは大体防げていた。
普通の王族や高位を授かっている貴族はそれほどバチカルを離れるようなことはしない。
預かっている領地を持っているようなら精々自分の領地に赴いたりするだろうがそれは慣れたことで、ルークのように方々を飛び回る王族は殆どいなかった。
地位の高いものは勝手にでさえ顰蹙を買われる。
それは、キムラスカ国外の者だけではなく国内の者からでもあるが、今回の件に限っては微妙な線だった。
もちろん相手は、ただの野党とは思えない。
王族とわかる馬車に十分な警護を付けていたのに、それでも堂々と襲ってくるという行為。
ここまで大々的なのは初めてだった。

「うん。わかってるけど…やっぱり庇ってくれたみんなに申し訳なくて……」
気を遣ってくれたアッシュの言葉は十分にもわかったが、それでもがルークにはあった。
目の前で人が死んだことを割り切ることは、そんなに簡単には出来ない。
そして、親友のように仲良くしていたガイにも怪我をさせてしまったことが一番こたえていた。
命に別状はなく数ヶ月安静にしていれば傷も癒える。と医師から聞いたとき、やっと落ち着くことが出来たぐらいで、それまで不安で仕方なかった。
処置が施された後直ぐに見舞いに行くと、「しばらく養生するだけだから、そんなに気にするな。」と、いつものように明るくガイは言ったが、やはり心のしこりは拭えなく、青ざめが残る。

どうして、こうも自分は役立たずなのだろう。
狙われたのは俺だったのに…こんなことが初めてなわけではないからこそ、やはり俺には力がないと実感して、お飾りなことを思い知った。
その名だけがあればよいとされての象徴なだけで、都合のいいように粉飾させられている。
そんな自分が、色々と目障りな存在であることは確かだと、自分自身でさえ思った。








コン コン コン
間を割るように、続けざまにノックが鳴り響いた。

「ルーク様、宜しいでしょうか?」
「ああ。」
いつも給仕をしてくれるメイドの一人の声であると判断したルークは、入室を許可する言葉を発した。
メイドはうやうやしく部屋に入ると、そこにアッシュもいたことにまず驚いたが、冷静に。
「アッシュ様もこちらにいらっしゃいましたのですね。お探ししておりました。」
改めての一礼をしながらも、簡単に用を告げた。

「俺にも…何か用か?」
てっきりルークの様子を身に来たのだろうと思っていたが、意外にも自分へもがあるようだから、アッシュはルークより先に声を出すこととなった。
「はい。ルーク様並びにアッシュ様、お二人ご一緒に旦那様がお呼びでございます。応接室でお待ちとのことです。ご足労下さい。」
言われたことをそのまま伝えたメイドは責を果たすと、入ってきたときのように一礼を返して早々に退室をした。


その後、ふと残ったルークとアッシュは、少々顔を見合わせた。
「父上が俺たち二人を一緒に?何の用だろう…」
不安の色を見せて呟いたのはルークの方で、渦中にもそれが溜まる。
二人そろって呼ばれるということは、ルークの記憶の中にある限りでは初めてじゃないだろうか。
ルークとアッシュに共通な用ということは滅多になく、たまにあっても個別に呼び出されるぐらいであった。
今までのこともあって、正直良い予感はあまりない。
「話を聞けば、はっきりするだろう。行くぞ。」
アッシュにも特にの思い当たる節はなかった。
ルーク同様、引っかかる部分もあったが、ここで考えていても仕方がない。

早々に用を済ませるため、二人は共に部屋を後にした。










「失礼します。」
ファブレ公爵が待ちかねていると判断をして、ルークとアッシュは応接室への入室へ一言おいた。
中へ入ると、部屋の中心から少し離れたところに置かれた大きなテーブルの上座にファブレ公爵は鎮座していた。
二人が入ってきたことに身体を向けるようなことはなく、無言で座るようにと示している。
揃って父の前に並んでいたのだが、それを察知したので、二人とも黙って見事な装飾のされた椅子へと座った。

流れるのは沈黙ばかり。
高く天井がとられているこの応接室ではそれを余計に感じる。
いつもは、二つほどある扉の近くに白光騎士団兵が警備に勤めているのだが、人払いをしたようで今に限ってはそれもなく、三人きりであった。



「お呼びですか?父上。」
並べるような御託も特に見つからず、メイドが紅茶をおいて下がった後、ルークはそう切り出した。
正直、この親に呼び出されることも珍しい。
アッシュのほうはいつも端正な顔が少し不機嫌にしていたが、父を目の前に対して良い顔がそうそうできるものではないとわかっているから、早く終わらせたくあった。

「我が国とマルクト帝国の関係が緊張状態であることは、周知であるな。どちらか一方に何かあれば、直ぐにでも開戦にも及ぶというのは、大げさなことではない。」
そこまで言われるとルークのほうにも緊張が走る。
元々外交関係にはそれほど携わせてもらっていなかったし、重要と思しき会議には出席できなかったので、内情までは把握できる立場ではなかったが、そこまで悪いとは思っていなかったし、思いたくもあまりなかった。
「そんな中ではあるが…一昨日、マルクトからの使者と導師イオンにより、親書がもたらされた。」
「導師イオンがですか!?」
淡々と話を続けるファブレ公爵の口から思いもかけない人物の名前が出てきて、ルークは驚愕した。
導師イオンと言えば、現在の平和の平定者でもあり、唯一キムラスカ・ランバルディアとマルクトの仲を取り持つことが出来る人物だった。
その彼がマルクトの使者と共に親書を持ってきたとなると、書かれてる内容は大抵の予想がつく。
「そうだ。それに伴い昨夜、緊急議会が召集されて、マルクト帝国と和平条約を締結することに合意した。」
それを聞いて、伏せがちだったルークの顔がぱっと一気に明るくなる。
長年いがみ合いの戦争を続けていた両国が歩み寄るというのは歴史の中でも少ない。
そんなに簡単に仲良くと言うことは出来ないであろうが、大切な一歩を踏み出すことになるには違いなかった。
しかし、ふと正気にもなる。
それは確かに喜ばしいことでもあったが、それが自分と何の関係があるのだろう?とここでやっと首を傾げ始める。
きちんと和平条約を締結すれば、国民にも告示されることで、早く知りたいというものはいるであろうが、ルークやアッシュがそんなそぶりをファブレ公爵にしたことは特にはなかった。
普段のファブレ公爵の様子から判断するにしても、息子にいち早く知らせてやろうというような性格にも見受けられないので、疑問は増すばかりであった。



「それで、和平条約締結の第一歩として、マルクト側から救援の要請があった。」
やはり話はそれで終わるものではなく、ファブレ公爵は話を続ける。
「救援……一体、どんな要請なのですか?」
ぴくりっと眉を潜まして、直ぐに反応したのはアッシュであった。
その言葉を言われて、これから言われるであろうことを瞬時に察したが、続きを促す。
「マルクト帝国の鉱山都市アクゼリュスが、原因不明の正気という大地の毒素に蝕まれているとの事。もちろんそれを知ったマルクト側は直ぐに救援に向かったとの事だが、マルクト側のアクゼリュスへと向かう道さえも正気が充満しているため救援が不可能らしい。」

「それで…カイツール方面のテオ峠からアクゼリュスに入り、救援をして欲しい…ということですか?」
ファブレ公爵が皆まで言うまで、アッシュは先に結論を言った。
それに肯定の頷きをファブレ公爵はした。

「え…アクゼリュスって、マルクト領域なんだろ?キムラスカ側からも行けるのか?」
理解が少し足りていなくて、ルークはファブレ公爵の前と言う事実をおいても、アッシュに問いかけた。
「随分と昔のことだが、アクゼリュスはキムラスカの領土だったんだ。それに今でも、アクゼリュスで採掘した鉱石はテオ峠を使ってキムラスカへと輸入されているから道は整っている筈だ。」
実際に自分で見聞きした知識ではないが、読み漁った洋々の文献を統合してアッシュは答えた。
「そうだったのか…」
自分の勉強不足にルークは少し落ち込む。
実際はそれほど知られていることではないので、アッシュが知りすぎていることでもあったが、仮にそうだとしてももっと勉強しなければと再認識する出来事であった。



「事情はわかったな。では、これがおまえたちを呼んだ理由だ。」
がたりっとファブレ公爵は椅子から立ち上がった。





「ルーク、インゴベルト陛下より勅命だ。この件に関して、キムラスカ・ランバルディア王国の親善大使としておまえが選ばれた。
後日、陛下の御前で正式に任命式を執り行い、親善大使を承る。」

有無を言わさぬように、ファブレ公爵は言い切った。











アトガキ
オリジナル設定全開ですみません。
2007/04/14

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