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  ここが本当の安息場所  3












望んで見ることの出来る夢などはない。

ただ、休息を得なければいけないので、睡眠は必要とされる。
それが、どれだけの苦痛を伴おうが、本人の意思など関係なく。
















ああ、温かく心地よい……
こんなに安心しきって、眠れたことなど今までの記憶にあるだろうか。
何も知らなかったときはそれが当たり前すぎて、何も感じなかった。
世界を知ったときは、もう既に過去に苛まれていて劣化するものしか感じることが出来なくなった。
それなのに今は、幸せ過ぎる感受性の中にいた。








虚ろ逝く中での覚醒が確約されて、ルークはぱちくりと目を覚ました。
身体の疲れは十分にとれた筈なのに、なんだか起きてしまうのがとても寂しく感じた。

ゆっくりとまぶたを開くと、強烈な印象を残す赤が眼下に飛び込んできた。
自分の髪か?と一瞬だけ思うが、自分の髪は短いはずだしそれはないと思う。
それにこの赤は深淵に引き込まれるような見事な赤だったから、自分のものと同等だとは思わなかった。
ルークは少し頭をずらして、その正体を探った。



(えぇっ!?アッシュ?)
意外すぎるその人物が居て、動揺で思わず叫びそうになる。
そして、そのまま身体がフリーズして、カチンコチンとなって動けなくなる。
おかげで目の前に、瞳を閉じて寝ているアッシュだけしか見えなくなった。
あまりに端正な顔立ちだから、自分ってこんな顔してたっけと思い、マジマジと見るというより見つめる。

(あ、やっぱり綺麗だな)
アッシュは男でしかも自分のオリジナルであるから、この思いは少し頓挫しているのかもしれないけど、ルークが素直にそう感じるのだから仕方がない。
寝ているから、いつもみたいに眉間にしわがよってないのが嬉しく感じる。
だって、こんなに近くで見たこともないから。
マトモに顔を見るのだって剣を挟んで程度だったし、大抵アッシュは自分を前にすると機嫌が物凄く悪そうであった。

本当に息をしているのかさえわからないくらい静かにそこにいるから
「アッシュ?」
と小さく呟いてみる。

起こすかもしれないとはわかっていたが、彼が好きな自分が悪い。



彼の名前を呼んでみたかった。
自分には、彼の名前を呼ぶ資格さえもないのかもしれないけど。

案の定起きなかったのだが、今度は名前を呼んでしまったという自分の緊張の方が膨大する。
あまりのその大きさに心臓の音で起きてしまう…バレてしまう…と思うくらい高鳴ってしまうから。
収まれと、無理やりな命令をルークはかけたが、あまり収まる気配はない。

そうだ。違うことを考えればいいんだ。
そもそも、どうしてこんな状態なんだろうと、当たり前なことを今更ながら思い出す。
ふと、ルークは視線を下に落としてみる。
そして、自分の手が汗握るほどにぎゅっとアッシュの法衣を掴んでいるのを発見した。

(これが、原因か。俺、馬鹿だな。)
何となくじゃなくて、その理由を明確に察する。
恋しいから、求めてしまった結果なのだろうか。
その手を離してみると、見事に爪にひっかけつつ留めていたのだなとわかった。
痕がのこるくらいのシワもくっきりと残っているのが見えて、思わずアイロン掛けをするように伸ばしてみるが、そう簡単には元に戻らない。
起きたら絶対に怒られると危機を感じて、ルークは萎縮した。
アッシュにとって寝てしまったのは不本意であるだろうが、それにしてもルークはアッシュに盛大に嫌がられているから、最初によく刺されなかったなと感心した。
優しさなど微塵も見たことはないけど、その気もないのに優しくするわけがない。



彼にとって、まだ自分が利用価値のある存在であるなら、それでもいいと思った。
利用されるだけ利用されても、その関係でさえ必要とされるなら





「俺を許さないで。その罪で、ずっと縛り付けてくれればいいよ。」

彼が言った言葉が俺を戒めるから、俺は生き抜ける。
免罪符なんて、いらない。だから…





ルークはようやく起き上がって、アッシュから身を引き離した。
一気に身体が冷えるような寒さを感じる。
神託の盾(オラクル)本部は、ダアトの地下深くにあるから窓もないし換気もそれほど良くはない。
地中の冷たさだけが、深々とこの身に染みた。
そして名残惜しくはあったが、ベッドの上から立ち上がろうとした。



「な!?」
軽い叫び声と共に、ルークはベッドに舞い戻る。
突然、後ろから上着を引っ張られて、バランスを崩したのだ。
引き寄せられた相手…アッシュを目の前に、先ほどと殆ど変わらない体制に戻る。

アッシュは起きては居ないようで、同じようにまぶたを閉じたままだ。
心臓が更にバクバクと音を立てる中で、どうして?とルークは悶々と考え抜く。
やっぱり、アッシュも寒かったのだろうか……と、それに行き着く。
ベッドに接しているとはいえ、その上には何もかけてはいない。
今まで、ルークがいたから多少なりとも温かさがあったのだと思う。
でも…もしかしたら、少しでも同じ気持ちになってくれたのかな?と思いたくもなった。





怒られても、殴られてもいい。
だから、この腕の中でぬくもりを、やすらぎを、得たかった。








そろりと、ルークは身をうずくめて、再びまぶたを閉じた。



もう一度、おやすみ





もし、夢の中で彼に出会えたら、この幸福の中で息絶えてもいいとさえ思うから。





















多少なルークの寝息が聞こえたところで、アッシュは目を覚ました。
また熟睡しているルークは、心底安心しきった顔でここにいる。
もう、手は離されているのでその状態から身をあげても、大丈夫だった。
特にゆっくりとした動作ではないのに、アッシュが起き上がってもルークは起きやしない。
アッシュは乱れた長い髪をかき上げながら、ルークを見下ろす。



俺としたことが、迂闊だった。
今回のことは、その一言に尽きるであろう。

でも、こんなに心行くまで寝たことはなかったのは、ルークだけではなくアッシュもそうであった。
互いに手を血に染めし者なのには、変わりはない。
むしろアッシュの方が狡猾で、手段など選んでは来なかった。

久しぶりに安息を得ることが出来た。
だから、見逃してやる。
それをアッシュは表面上の理由にした。





ベッドから降り立ったアッシュは、ふぁさっと枕元に置いてあったシーツを宙に広げて、ルークにかけてやる。
その涼しい風にルークは少しだけ身震いしたが、直ぐに収まってまた寝だした。













「俺を惑わしたおまえを、許すわけがねえよ。」



そう、俺は最後まで嘘をつき続ける。








永遠の安息とは、死である。



その先に、見いえるモノがあるなら…
もしかしたら、何かが変わるかもしれない。



















アトガキ
2006/09/03

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