「眠い。」 現在のアッシュの思考を占めるものは、その一点に絞られていた。 手配した資料が、 心なしかいつもより足ぶみが早いのだが、何も急用というわけでない。 このところの強行軍がたたったのか、アッシュはとても疲労を感じていた。 さっさとやらなければいけないことはあるのだが、身体が本調子でない状態では最善の行動もとれないものである。 久しぶりに戻ってきた私室なのだから、休憩をしよう…そう思い、特務師団長室でもある私室の扉を開いた。 「……何でこいつが、ここにいる?」 中央に置かれたベッドにいた人物――ルークを見て、アッシュは凄く不機嫌そうな声をだした。 誰かが考えた新手の嫌がらせか?とまで思ったが、そんなアッシュの気持ちは露知らずルークはベッドに転がり寝ていた。 寝相は…もちろんあまり良くない。 「おいっ。起きろ!屑。」 げしっ なぜここにいるかはわからないが、何をどう考えてもこの部屋はアッシュの部屋である。 乱雑にそう言い、アッシュはルークを軽く蹴りつけた。 たしかに衝撃はあった。 実際にルークは少し、身震いという反応を起こした。 が、起きる気配は一向にない。 相変わらず、ルークは眠りについている。 「ご…め……」 「何だ?」 か細い声ではあったが、特に動きもみせないルークが何かを言っている。 途切れ途切れで苦しそうに言う言葉が気になり、アッシュは耳を近づけた。 「ごめん…なさ……俺…が殺した………」 何度も何度も謝るルーク。 そして、閉じられた瞳の端から零れ落ちる悲涙。 それに比例して、表情もどんどん硬くなり顔色も悪くなっていった。 「ちっ…」 その様子を見て、アッシュは仕方なくルークを起こすのを止めた。 ドスンッ 疲れたと、寝ているルークの横にアッシュは腰掛けた。 この部屋にベッドは一つしかない。 しかし、近くの部屋…といってもこのあたりは特務師団のエリアなので他の六神将の部屋、を借りるのは当然のごとく嫌だった。 少し遠いが空き部屋でも探すか、とアッシュは立ち上がろうとした。 むんずっ 何かに引っ張られた。 いや、原因は一つしか考えられないが。 首を回して、その正体を確かめると… ルークがいつのまにかアッシュの服を掴んでいた。 それも、力いっぱい。 寝ているのにどこにそんな力がある?という力量で、アッシュが取り外そうと服を引っ張っても全く外れない。 アッシュの身動きは取れなくなった。 「こいつ…意識があるとしたら殺す。」 そう、はき捨てた。 ガチャリ 「ルーク、そろそろ出発よ。起きて。」 ティアはその言葉を最後まで何とか言い切ったが、次の瞬間には扉の前で考え込んだ。 「どうした、ティア?」 さきほど一度ルークを起こしにきたが、起こせるような感じではなく出発ギリギリまでは休んでもらうことにした。 しかしそろそろ時間が迫っており、さすがに起きたかもしれないと思いつつ来たのだが… いつも冷静沈着なティアがそれに反する行動をしていて、他の仲間たちが次々と部屋を覗き込む。 「ちょっ…これ、超スゴくない?」 「たしかに貴重ですね。写真でも撮って脅迫道具にでも使いましょうか。」 はっはっはっ と笑うジェイドの言葉は、あんまり冗談にも聞こえなかった。 うっすらと涙の後が残っていたが、苦痛の表情は消え安心しきって寝ているルークの隣で アッシュも同じように寝ていた。 アトガキ 2006/01/24(再UP 2006/04/10) back menu next |