「今、動いているのは俺の身体じゃない…」 そう思い、口に出したはずだったが、それは言葉にはならずに誰も届かなかった。 自分はずっとルークだと思っていた。 いや、思いさせられていたのだ。 そうでありたいと思うように記憶がなくとも、昔のことに執着がなかったのは、本心では自分が自分ではないことをわかっていたからかもしれない。 だから何も考えたくなかった自分がいる。 アクゼリュスを崩落させて、ルークは自分のオリジナルと名乗ったアッシュに敗れた。 その後倒れた為、意識は酷く曖昧であったが、次に目をあけると身体の自由がきかなくなっていた。 最初は金縛りにでもあったのかと思ったが違い、自分の存在がなかったのだ。 状況を理解するに、どうやら精神体のような浮遊物体になってアッシュの身体についているようだった。 この身体の中では圧倒的な存在としてアッシュがおり、ルークの存在は微塵のようで何も出来ない。 時折思ったことを口にすると、アッシュには聞こえているらしいが、返答など滅多にしなかった。 ベッドに置き去りにされる自分の身体を見送った後、アッシュの身体ごとルークはユリアシティを去った。 タルタロスでベルケンドを目指し、また直ぐに次の目的地であるワイヨン鏡窟へ向かう。 アッシュは殆ど無言で必要以外のことを話さない。 いくらルークの心がアッシュに近くても、彼の考えが伝わってくるわけではなかった。 それでも、行動で見知れる部分がある… この状態ではアッシュしか見れなかったという事もあるが、それでも今まで持っていたアッシュの印象とかなり違った。 俺は今まで自分のことしか見えなかったし、見えていなかった。 しかし、アッシュはオリジナルだがルークとは全く違う人間だった。 仕方のない部分もあるが、誤解していたのだ。 この状態で不便なことは多いが一番ルークが気になったのは、アッシュ自身の姿を見ることが出来ないということだった。 なぜか見たいと思った。わからない感情。 そして、もっと知りたいと思ったら…ぶつりっと何かが途切れた。 気がつくと、元のように自分の身体に心が宿り、自由に動くことが出来た。 髪を切り自分が変わりたいと思ったのは、誰の影響だったろうか――― また会いたいと思ったが、音沙汰はなくただ時間だけが無常にも過ぎていった。 今日も…と指折り数えていたとき、その連絡は来た。 ケセドニアでアッシュからの呼びかけがあったのだ。 すぐさま砂漠のオアシスに向かうと、ようやく会える。 このとき初めてきちんとアッシュの姿を見ることが出来た。 (ああ、俺は彼が好きなんだ………) 改めて自覚するこの感情。勝手にどんどんと軋んでくる。 会えて嬉しいという芽生えが、すんなりと溶け込んでいった。 彼のようになりたいと思う憧れをも超えるものがある。 アッシュは自分のことを大嫌いであろう。 ありとあらゆる行動からそれを読み取れた。 だから、せめて彼のレプリカとして恥じないように、生きていこう。 『これが俺の唯一の生きる意味となっていたのかもしれなくても…』 アトガキ ペーパー小話vol.2より 2008/01/27 back menu next |