ブログ & Blog      ル フ ラ ン     


鏡 に う つ っ た 約 束  30












ルークがルークとして存在しないかぎり
アッシュもアッシュとして存在することは出来ない

アッシュがアッシュとして存在しないかぎり
ルークもルークとして存在することは出来ない




















二ヵ月後 ローレライ教団総本山ダアト
















その日のダアトの街は類を見ないほどの、活気に沸き立っていた。
巡礼者だけではない多くの人々が町並みを往来し、皆常に笑みがこぼれている。
教会の裏手には一世一代の祭りの様に花火があがり、街の隅々に祝福の花吹雪が舞う。



誰もが、待ち望むことが出来る日がやってきた。









ローレライ教団総本部の自室の窓から、ルークはその様子をうれしそうに眺めていた。
口元に笑みを浮かべて、この日の到来を実感する。
角度的に見ることは出来ないが、式典の中心であるダアト教会にはよりたくさんの人が詰め掛けておりうれしい忙しさに包まれている。

ひときしり展望を見渡すと満足して、ルークは窓際から離れる。
そして備え付けられている机に腰掛けて、次に立てかけられた羽ペンを手に取った。
机の上には、何も書かれていない皮羊紙が広がっており、ルークはそれに向かった。
コツコツと少しだけ悩むような仕草をしたが、考えていてもうまくいかないと判断して、すぐにペンを紙につづらせた。
























父上、母上へ





お久しぶりです。
随分とご無沙汰していましたが、やっときちんと報告が出来る日が来ました。



今日はレプリカたちの街の完成の竣工式です。
みんなの協力の結晶が、ようやく実りました。
贔屓目を差し引いても彼らは良く頑張っていて、ダアトの保護から完全に離れて、自立する日もそう遠くはないと思います。



バチカルの街はどうですか?
あれ以来、戻っていないのはすみません。
こちらが落ち着いたら、挨拶に戻ろうと思っています。

キムラスカ・ランバルディア王国の益々の良い噂は、こちらにも届いています。
インゴベルト陛下は後遺症もなく元気とのことで、一安心しました。
今日の式典にはナタリアも参列しているので話を聞いたのですが、王制制度と貴族制度の見直しが進んでいるようで本当に大変なきっかけをつくってしまったのだな、と事の重大さを改めて実感しました。
それでも父上や母上は賛同しているとのことを聞いて、悪い方向ばかりに進んでいるものではないのなら、と思います。

ナタリアには、本当にすまないことをしてまったので、今日改めて会う前から手紙のやり取りでその都度あやまっていたのですが、あやまることを逆に怒られてしまいました。

俺の周りの女性は、強い人ばっかりだなと思います。

アニスは、同じく神託の盾オラクル騎士団にいるのでよく会って、手伝ってもらっています。
本来の責務である導師守護役フォンマスターガーディアンの仕事もあるのに、とても元気で精力的です。

ティアも、テオドーロさんの代理としてたまにダアトに来ています。
ユリアシティとダアト間を行き来するのは大変だと思うのに、来るたびにいつも俺たちの気をかけてくれています。

女性だけではなく、かつての仲間は常に何かしら協力をしてくれています。

ガイは、ガルディオス家の復興に忙しいというのに、レプリカの街建設の資金援助をしてくれたりと本当に感謝しきれないです。
まめにくれる手紙も、俺たちを元気付けて発破をかける内容なので、とても励みになっています。

ジェイドは、滅多に会わないけどときおり手紙をくれます。
直接には言いませんけどレプリカに関して一番気にかけているのは、ジェイドだと思います。
それは…罪悪感からだけじゃないようで、健康面の支援とか本当に助かっています。



ダアトは、少しずつ変わっていると思います。
外から見た仲間がそう言ってくれているのだから、少し自信をもてました。





なんだか、仲間のことばっかり書いていますね。

えーと、俺とアッシュは……………
























「ルーク。」

突然、背後からかかった低い声。
それが少し意外で、ルークはびくっと身体を振るわせた。





「アッシュ!いつから、いたんだよ。」

振り向くとやっぱりいたのはアッシュで、礼服に身を包んでやっぱり文句なしに格好よかった。
振り返る前からその声で誰かはわかったが、まさか真後ろにいるとは思わず驚いた。
その距離も結構近くて、気がつけなかった自分は不覚だったと感じてしまう。



「それほど前じゃない。楽しそうに書いていたからな、声をかけにくかった。」

別に驚かせたことに悪びれもなく、アッシュは答えた。
真剣にしていたので眺めるだけだったが、ルークのペンが重く止まったので声をかけた。



「つーか、式典はどうしたんだよ。まだ、終わってないだろ。」

ダアト教会にて式典に参列していた筈のアッシュがいるとは思わなかったから、余計にルークは驚いたのだった。
時計を正確に見ていたわけではないので確証はもっていないが、式典が始まってからは随分と時間は経過しているが、終わりの時間まで行き着いたとは思えなかった。



「主だったところの挨拶をすませてきたら、抜けてきた。別に俺がいなくても、かまわないからな。」

「マジかよ。今回の一番の功労者はアッシュだって、トリトハイム詠師が言っていたのに、多分みんな探しているぞ。」

見渡す限りでは何か問題が起きているような様子ではなかったから、多分そうなんじゃないかなと思っていたけど、まさか本当に抜けてきたとは思わなかった。
そんなルークの言葉を聞いてはいるのだろうけど、アッシュは着ていた礼服の襟元を少し崩した。
いくらアッシュでもがちがちに決めた礼服をずっと着ているのは、息苦しいのであろう。



「おまえが、いないからな。」

少し不満をはらんだ音を入れて、何気なくアッシュは言った。



「そんな理由?俺はまだ正式な神託の盾オラクル騎士団員じゃないし、ただアッシュの手伝いしてただけだから参列しないって言ったじゃん。」

「レプリカとの間を取り持つのに一番買っていたのは、おまえだぞ。謙遜するな。
明日からの街の試運転の視察は必ず同行するように、と言われているから引っ張っていくからな。」

「う゛……わかったよ。」

レプリカたちの街が完成する前からちょくちょく街に不便がないか見に行ったり、前々から仮住まいしているレプリカたちに声をかけたりしていたことはしていたが、正式にそうやって行くのはなんだか気恥ずかしい。
でも、いつまでもそう言っているわけにもいかないので、ルークは腹を決めた。














「ところで…続きを書かないのか?」

アッシュはルークの向かっていた手紙を軽く指差し、そう言った。
話しかけたこともあり、ルークの手は止まったまま動く気配はない。



「父上と母上に、近況報告を兼ねて手紙書いているんだけどさ。ちょっと、何を書いていいのか悩んでてさ…」

うーんと、ルークは悩める仕草をした。
ペンを持ちつつも、それを持て余す。



「さっきまで軽快に書いていたようだが、何を悩んでいるんだ?」

「俺とアッシュの近況報告。自分のことってあまり見えないんだけど、俺たち何か変わったことってあった?」

どうも良い文章が思いつかない。
アッシュは相変わらずで、俺も少しは役にたっていると思う。
とか?
それだと、何だか代わり映えがしないように感じてしまう。
特別に大変なこともなくいつもどおりにやっている、というのは良いことなのかもしれないが、折角手紙に書くのだから進歩を見出したかった。

どうも一人で考えていても思い付きが悪いので、一応この手紙は二人からってことになるのだから、ルークはアッシュに代弁してもらうことにした。











「別に着飾るような文章にしなくてもいいだろう。
“俺たちは幸せです。”とでも、書けば。」

いつもの顔の素の様子でアッシュはそう言った。
その言葉に別段の他意はないだろう。
本当にそんな感じで、あっさりした様子だった。



「アッシュって、時々何気に恥ずかしいことをさらりと言うよな。」

聞いているこっちが恥ずかしいと、ルークの真顔が保たれなくなる。
その言葉に、ルークの全てが包み込まれる。
窓を開けたままでよかった。
火照る顔を冷やす、適度な風が辺りを覆うから。





「事実を言っただけだ…お前は違うのか?」

「違うわけないじゃん。」

すぐにその言葉を振り払い、新たな言葉を入れ込む。
違わない。不満なわけがない。

















ルークは、再びペンを取る。



ほらっ
考えなくても、すらすらと文章が出てくる。








“俺とアッシュは、幸せです。”








そのことだったら、もうどこまでも書けるから。

















「アッシュが居るから、幸せだよ。」

どうしようもなく、その気持ちがあふれ出る。
声に出る。



「奇遇だな。俺もだ。」

ふっと笑って、アッシュも賛同する。





今も、これからも、俺は幸せだ。

それだけは、確実に言えるから。
















俺はどうして生まれたんだろう。

    何のために生きているんだろう。





決まっている。
今ならはっきりとわかる。

自分の幸せのために、生きている。
この鏡の幸せのために、生きている。











アッシュという光と、ルークという光が、それぞれ鏡にうつる。
どこまでも同じ鏡が二人の間にある。



一つが存在しなければ、その鏡も存在することはできない。何もうつることは、出来ない。
アッシュとルークが居るからこそ、この鏡は存在できる。
だから、共に歩み続けるいつまでも…





二人の間に取り交わされた約束は、いつも同じ。

たった一つだけ。

それだけが、あればいい。

















永遠の鏡となろう



それが、一生の未来永劫に続く約束。
















約束は、果たすためにあるものだから






















fin…
























アトガキ

これにて、鏡にうつった約束は完結とさせて頂きます。
ここまで読んで下さって、本当にありがとうございました!

彼は死んだ 世界は救われた

初めてEDを見たときに直感的に私の元に舞い降りてきたのが、この言葉でした。
鏡にうつった約束は、これから色々と発展させて書いたお話です。
削ったエピソードもありますが、出来る限り書きたい話は書ききったつもりです。
皆様の応援がなければここまで書ききることは出来ませんでしたので、本当に感謝をしてもしたりないくらいです。
まだちょっと書いてみたい話があるので、番外編みたいに書くこともあるとは思いますが、一応は終わりなので、また別のお話でお会いできたら光栄です。

では、皆様今までお付き合いありがとうございました。
完結にあたり、宜しかったら感想など頂けると幸いと感じます。


2006/05/09

back
menu