彼に出会わない輪廻  1













ゆらりと浮かぶ光体が幾重にも並び立ち整然としている。
元々光溢れる世界だが、命の灯火の光たちはそれ以上に輝いていた。
その中の一つを手に取ってから、人間の輪廻を司る位の高い人物から質問が投げかけられた。

「この魂の名は?」
「生前はルークと名乗っておりました。聖なる焔の光のレプリカです。」
宙に浮かべられている書物が、調べるように勝手にめくられて代わりに答える。
「レプリカ…これでここに来るのは一体何人目だろうね。」
昨今、もう随分とレプリカの魂を見送ってきてしまった。
無情を流すように言葉が出てしまう。
「原則としてレプリカは転生することが出来ません。ですので、こちらでは正確な数は把握していないのですが。」
模範的な回答として書物は答えた。
記録されるものは必要なものだけで、それにレプリカは入ってはいない。
「そうだったね。でもこの子はとても特別のように思える。」
数多ある魂の中からふいに伸ばしてしまった手に取ると、余計に他のものとの灯火の違いがわかる。
「彼はレプリカとして十年ほど過ごしたようです。他のレプリカと違って見えるのはそのせいかもしれません。」
「今までレプリカに転生が許されなかったのは自我がないからだった。せめてこの子は他の人間と同じようにしてあげよう。」
まだ全てのレプリカに同じようには出来ないけど、下界が変わったのならば、これから来るレプリカたちも同じように出来るから。
レプリカたちの未来のための最初の事例として。
「かしこまりました。ちょうど生前の彼の友人が子を身ごもったそうです。まだ転生する魂は決まっていませんので、そちらに転生させますか?」
言葉を受けて今度はたくさんのページをめくると、一つの案に行き着く。

「………いや、どうやらこの子が転生する先はもう決まっているようだ。しばらく様子をみよう。」
しばらく考えたが、ふわりと再びふれたルークの魂の震えを感じて、そうすることにしたのだった。









「あら、アッシュ。随分久しぶりですわね。」
バチカル王城の広く取られた一室で、通されたアッシュを見てナタリアは驚くように声をあげた。
「一応はバチカルにいるのに、最近顔を見せなくてすまなかったな。まだやることがあるんだが、とりあえずこれを。」
アッシュの右手に繋がっている物。
ふぁさりと差し出されるのは大ぶりの花束が、場を埋め尽くすかのように大きく広がりナタリアに向けられた。
白い色を中心とした大抵が淡い色の花々だった。
「まぁ、綺麗ですわね。」
「座っていていい。花はこっちにおいておく。」
喜んでナタリアはベッドから立ち上がろうとしたが、それを制止したのはアッシュだった。
そのまま玉の装飾が施された美しい大理石の机の上に花束を崩れないように置く。
「もう知ってしまわれたのですね。」
「明日には正式に国民への通達もあるようだが、インゴベルト陛下から父上に話があってな。」
「お父様ったらおしゃべりなことですこと。」
くすりと笑うようにしゃべる。
自分がインゴベルトに伝えたときは飛び上がるぐらい喜んでいたことが嬉しかったけど、恥ずかしさもあってわざとそう言ってみる。
「陛下にとっては初孫になるんだ、嬉しいのは仕方ないだろう。おめでとうナタリア。」
もう、こんなときにしか見せないぐらいの笑みをアッシュは精一杯送った。

アッシュがエルドラントから帰還してまもなく、ナタリアはバチカルの一貴族と結婚した。
彼は王家やファブレ公爵家とも親戚筋にあたる跡取り息子であったので血筋も由緒正しいので政略結婚と思われがちだったが、性格がナタリアとはとても合うようで恋愛結婚をしたのだった。

「ありがとうございます。わたくしが以前より公務が出来ないときは、あなたにも迷惑をかけてしまうかもしれませんが。」
「何を言っている、めでたいことじゃないか。彼と結婚をしたときから子供は望まれていた事だろう。」
幸せムードの中なのに少し物寂しい声をきいたので、アッシュは少し慌てて返した。
「それはそうですけど、わたくし自分が結婚をしてから思いましたの。アッシュも早く結婚なさればよろしいのに……」

幼い頃結ばれた婚約者という関係が無くなってからアッシュには本当に山のように縁談が舞い込んで来ていたことをナタリアも知っていた。
しかし、今までの時間を取り戻すかのようにファブレ公爵の補佐や独自の公務もこなして忙しいアッシュは、それを全て断っていた。
公爵邸に迷い込む手紙や写真は積まれたまま、当の本人の目どおりも叶わずにいたのだった。
アッシュとて王族に連なるものなので最低限必要なパーティーには出席を最初は出ていたのだが、軍関係の公務に仕事を移動させていったこの頃ではそれさえも遠ざかっていた。
当主としてパーティーに出席する父ファブレ公爵はため息をつきながら寄ってくる貴族からの縁談を断り、母シュザンヌは物寂しそうにアッシュが見ない写真を眺めて整理するのだった。
「悪いがそういうことは考えていない。」
機会をわざとつぶしているのをわかっていながらも、アッシュはそう言った。
それは自身には結婚の意志がないと、暗に示しているようにも思えた。
「そうですわね。わたくしわかっておりますのよ。だから、この子が男の子ならつけようとした名前。やっぱりアッシュの時にとっておいた方がいいと思いますのよ。」
とても小さな生命に、軽くふれながら伝えた。

お腹の子は男なのか女なのかもわからないほどのまだ三ヶ月である。
それでももし男の子ならばと、一番に思い立った一つの名前はナタリア一人で決めるものではないけど、使うならば許可を得る相手はアッシュだった。



結局、その名前が一生使われないことになってしまっても。









ふわりと漂う光の世界で、魂のみになったルークは一生待ち続ける。
たった一つだけ望んだ転生場所が現れ続けるのを

自分自身のせいで、一生再会できる事も知らずに−−−











アトガキ
ルークの転生場所はアッシュの子供。でもアッシュはルークのことがあるから子供を作らない。だから永遠にルークは生まれないのでアッシュと会う事は出来ない。
という感じです。悲恋ですみませんでした。
輪廻=業=カルマ
2008/05/12

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