段々と日が暮れ始めた夕方。 オールドラント一の流通拠点であるケセドニアにて、一向は宿へと向かう真っ最中であった。 エルドラントが浮上し、最終決戦地へといよいよ乗り込む時を待つばかりの時である。 もしかしたら、こうやってきちんとした安息がとれるのは最後になるかもしれない場所であるどこの宿屋を使うかと皆が思案しているときに、ルークは少し離れた後ろにいたジェイドに声をかけた。 「あの…ジェイド。今日、相部屋になってくれないか?」 やや暗い影を落としながらルークは、その頼みごとをジェイドにした。 「…アッシュから、連絡がありましたか。」 漠然としたルークの要望ではあったが、ジェイドは即時に意図を察した。 「うん。これが、最後になると思うから。」 レムの塔後のベルケンドでの検査から随分と時が経過したのだがそれ以来、ルークとアッシュは定期的に一週間に一度程度会っていた。 連絡は完全にアッシュからの一方通行ではあったが、ルークが近くにいるとわかったときはこちらに来るように通信をしていたのだった。 一人部屋などという贅沢はさすがに出来ないのであるが、部屋割りは基本的に二人部屋で不定期であるから、こういった日は事情を知っているジェイドと同じ部屋をとっていた。 不自然にならない程度に慣れてしまったひっそりと宿を抜け出す行為は、他の仲間にはバレていないことだけが救いであった。 「わかりました。では、いつも通りに。」 短い会話の中に全てを収束して、ティアたちが決めた宿屋へとルークとジェイドは後を追っていった。 「来たか。」 気配を察知し、アッシュは腰掛けていた椅子から立ち上がった。 いくつかあるケセドニアの宿屋の一室を借りてのこの場所ではあったが、未だ だから、ここに来ることが出来る人物は、それを伝えたただ一人であった。 特に時間の約束などはしていないが、もう何回目かのこの行動にて来る時間が大体決まっていたから、予め鍵を開けておいた。 ほどなくすると、小さく音を立てつつその扉が開く。 「アッシュ…」 特に久しぶりでもない名前を呼んで入ってきたのは、もちろんルークであった。 呼びつけたようなものであったから、アッシュ自身に特別な感情を沸くわけでもない。 ただ、いつもと今日の違いがあるとすれば、これをするのが今日が最後だということだけ。 特に双方が口に出したわけではないが、何もなければこのままエルドラントに突入するであろうから、最低限の目的だけは果たされるのであった。 「アッシュ。やっぱり、一緒にヴァン師匠を……」 「何度も言わせるな。断ると言っている。」 しつこいルークの言葉は、怒気を含んだアッシュの言葉に見事遮られる。 何度会ってもそのことを言うルークに、アッシュはいい加減イライラが限界に達していた。 「でも…」 二人なら、もっと何とかなるかもしれない。 ローレライの剣と宝珠が別れたままのように、アッシュもルークも別れたままである。 真の目的であるローレライの解放には鍵が必要で、いつかは一つにならなければならない。 その決着は、エルドラントで着くことになっている。 それでも、話し合いで何とかしたいという淡い期待が未だにルークにはあった。 「そんなことのために、てめえはここに来たわけじゃないだろう。座れ。」 いつまでも扉の近くに突っ立ったままであるルークに、アッシュはベッドへと少しだけ視線を向けて促した。 眼力で人をどうこう出来るのだとしたら、アッシュは確実にその能力を兼ね備えているほどである。 それがわかっているからルークは、おずおずと窓際に備え付けられたベッドへと向かうと、ぼすんっとベッドへと腰をおろした。 一人分の体重により、白いシーツが細い皺をつくる。 「さっさとすませるぞ。」 そうぶっきらぼうに言いつつ、アッシュはルークに覆いかぶさる。 ギシリッと沈むベッドの音がやけに生々しいけど、元々シングルベッドであるのだから仕方がない。 「これが…最後だよな。」 確認するようにルークが問う。 「せいせいしたか?」 「アッシュは、嫌なんだろう。」 「てめえだって、嫌だろうが。」 眉間に深いしわを刻みながら、肯定を促すような口ぶりでアッシュは答える。 今までのように、定期的にこの関係を続けていけば、たしかに身体が安定しているのは事実だった。 やることは肉体的行為ではあったがその問題は精神の方で、とてもではないが持たなかった。 利害の一致する…ローレライの解放とヴァンを倒すために、ここで共倒れをするわけにはいかない。 ローレライと繋がっている少なくともどちらか一方は、ヴァンのところへと向かわなくてはいけかなったから。 それまで…という期限が定められて、ジェイドから聞いた一週間に一度という頻度を最低限に守っての行為だった。 もう、何度この身体を重ねただろう。 不本意であるのは重々承知での、接触。 「回線…繋げないでくれよ。」 行為の前に確認するこれだけが、ルークがアッシュへと求めたもろい約束であった。 回線の有無は全てアッシュが取り仕切っているから、ルークが拒否をしても繋げようと思えばアッシュは勝手に出来た。 「わかってる。てめえの頭の中をいつまでも覗く悪趣味はねえよ。」 これが、いつもの始まりの合図だった。 「アッシュ、明かり…」 言葉どおりに性急に推し進める行為ではあったが、未だ室内のランプは滾々と照らされたままであった。 外はもう随分と遅い時間帯で真っ暗であるのに、この部屋だけが人工的な光によって明るい。 そんな中での行為に免疫はないから、ルークは明かりを消したくて仕方がない。 でも、目の前にいるアッシュによって行動は遮られているから、それを口に出すのが精一杯であった。 「今日は、月がないからな。見えないと不便だ、このままやるぞ。」 端的に物を言って、アッシュはそのまま手を進める。 「ちょ…待っ……」 新月の夜をこんなに恨んだことはない。 いつもだって恥ずかしくて仕方ないのに、こんなに明るくてどうしようもなくなってしまう。 何とかしようと抜け出そうとするが、アッシュの長い手が既にルークのベルトに差し掛かっていた。 カチャリと金属音が鳴るとすぐにベルトが外される。 元々緩く着けているものではあったが、手早い。 そうして下部を覆う衣服だけ、素早くはだけさせられた。 何度しても、最初からどうしても恥ずかしくてルークは一気に赤面をする。 完全同位体だから見慣れている体なのかもしれないけど、ルークにとってはとても同じとは思えない。 この瞬間から、もう意識がもっていかれたように飛び始めてどうしようもなくなる。 高鳴る心臓をひた隠しにして、何とか心を静めようとする。 アッシュが自分を好きで抱いているわけじゃないということは、わかっているけど。 それでも死にそうなのに、少しでもそばにいられると思うとうれしくて不謹慎だ。 浅ましくて卑しくて、自分が最低に嫌になる。 義務のように推し進める行為はただやるためで、快楽を得るためじゃない。 目的を果たすために… これは、必然である。儀式だ。契約だ。 必要なことだからと、自分に言い聞かせる。 アッシュはルークに、キスをしたことさえもない。 それは必要のないことだから、何も抱いていない相手にする義理さえもないのだと、ルークは理解している。 行為が終わって、目が覚めると必ずいない。 余韻もない。 虚しさだけが残っても それでも……すがりたいものがあった。 「あっ…」 あまり声は出さないようにと気をつかっていたのに、やはりこの瞬間からは漏れ出してしまう。 下げられただぼだぼなズボンから曝け出されたルーク自身に、アッシュの指がかかる。 敏感なその場所に冷たい指が触れると、ぞくりと背中にくるものがあってビクリッとルークの身体が震えた。 アッシュの綺麗な指が、自分のを触っているだなんて信じられないけど事実で、そのことだけでも余計に感じる要因だった。 ゆるゆるとそれを扱っていくと、だんだんとむず痒い感覚がルークに陥る。 このままでは本当に苦しくて、少しでいいから手を緩めて欲しかった。 「う゛… いや、だっ」 アッシュの髪の毛に手を絡めて、ルークは制止の意図を示した。 既にその手に力は入らず、受けているアッシュにとっては軽く抵抗にも思えたのだろうが、問題は力の大きさではなかった。 「ガタガタ暴れるんじゃねえ。こっちだって、好きでやっていると思ってんのか?」 手はそれを掴んだまま、アッシュはがなった。 その強い音に、ルークに先ほどとは違った震えが来る。 相当不本意なことだとはわかっていることだけど、さすがにこうやって面といわれるとさすがに応えて、無言で制止の手を外した。 ぱたりと落ちたルークの腕を片目で見ながら、アッシュはどんどんと勝手に巧みにルーク自身を扱っていく。 ぬるぬると漏れ出す液体を絡めとるようにキツく伝う指が、普段より唐突に感じて早い限界の近さを実感させる。 カリッと効果音が着くほど、強く先端を爪で引っ掛けられる。 「…あ…ぅ………ひっ!!」 それをきっかけにルークは、ぽたぽたと若い精を放った。 「あっけないな…」 飛び散った汚れた手を見ながら、目を細めてアッシュは言い捨てた。 ルークを見下ろすと、肩で息をするように酸素を取り込むのに忙しいようで、瞳の焦点が合っていない。 喘ぐように必死で快楽を追いやろうとしている。 達した倦怠感は簡単にはひかず、だらんと垂れて意識もまどろんでいる。 「おい。てめえで、してねえのか?」 簡単に達してしまったルークに、投げる言葉。 劣化しているからか何だか知らないが、あまりにルークは早いから乱雑に聞いた。 「……だって、自分で、なんてわからない。こんなの知らない。」 まだ先ほどの余韻冷め切っていないルークは、アッシュの問いに朦朧と答えた。 「ふんっ……七歳児の頭か。」 他に覚えるべきことがたくさんあったのだろうが、本当に身体と心が合っていないようで使えない。 鼻で笑って悪態をつきながら、身を更にアッシュは起こした。 未だ脱がされていなかったルークの上着の大きめなボタンに手をやり、ぶちんっと外していく。 黒いインナーをたくし上げると息苦しく圧迫していたルークの胸が露わになり、汗をかいて湿っていたので外気に晒されて冷たくなる。 そんなアッシュの些細な動作ではあったが、達して敏感になった身体は軽く肌に触れるだけでも、伝われた部分が麻薬のように痺れる。 「…ぁ……ふ…ぅ…」 熱くて熱くて熱くて…どうしようもない。 伴ったもの全てが熱く、吐息を吐く。 顔の高揚が、まざまざとわかる。 自分は今、どんな表情をしているのだろう。 そして、アッシュは? 角度的に表情は見えないけど、無表情か嫌悪感を示しているだけであろう。 前に垣間見たときも、涼しい顔をしてこの性行為を進めていたから。 アッシュはむき出しになったルークの脇腹を撫で下げると、そのまま手が下肢へと沈む。 押し上げるように広げた足の間に伸びる指が先ほどルークが放った精を絡めつつも、更に奥の器官へと進んでいく。 何度目かの行為だからわかっているが、キツく結ばれているその場所を割り開くように、でもゆるやかに解いていく。 「うっ、くっ……あ………んぅ…」 反射的にルークは腰を引くが、それをアッシュが許すわけがない。 反対に、入れていない左手で腰をアッシュの方に引き寄せられて、よりリアルに指の感覚を味らわさせる。 快感の波にさらわれて、声がただ漏れする。 どうしても、気力だけでは我慢が出来ない。 歯をかみ締めるのも限界で、虚脱した左手を何とか持ち上げて口元に持っていく。 もう手で覆う気力もないから、そのまま曲げた人差し指の第二関節部分を軽く噛んだ。 「つっ……ぅ…」 何とか声がくぐもって、先ほどよりはマシになる。 それでも間から漏れ出す声は、どこまでも響く。 ルークの声が緩やかになったことに気がつき、アッシュは中に指を入れたままだが顔をあげる。 そこにいたのは、目を極端なぐらいぎゅっと瞑りつつも、快楽に耐えているルークの姿だった。 「チッ…」 軽く舌打ちをしながら、アッシュは開いていた手でルークの左手の手首を掴んだ。 「…ぅ…何…?」 いきなりなそのアッシュの行動にわけもわからなかったが、そのままルークが加えた指を無理やり外させた。 「くぁっ…!……つぅ…」 「痕を残すな。」 そう命令して、そのままルークの手首をシーツに押し付けた。 外された人差し指には、確かにルークの薄い歯形が残っている。 これなら、直ぐに消えてしまう。 乱暴に痛くして…… 痕に、後に、残って欲しいのにそれは許されない。 アッシュは、痕跡が残るようなことを極度に嫌っていた。 それは、この行為が周囲に漏洩しないようにという危惧と、主体である戦闘に支障が出ることがないようにとの事らしい。 アッシュ曰く「くたばってもらっちゃ困る」らしいが、負担をかけないようにと普段から考えられないほどやさしく触れられると、ルークは戸惑う。 それは義務的にやさしいように見えるだけで、あくまでルークのためではないと言い張る。 「だって、声…」 固定された手を嫌々と振るが、それに効力はない。 先ほどより敏感になった身体を伝う感触に、ますます声が高鳴っていく。 アッシュの言う痕の問題より、ルークはこっちの方が深刻であった。 「別に…俺にしか、聞こえてないだろうが。」 呆気なくそう言い、押し付けた手はそのままにアッシュは更に指を増やした。 だから、押し殺しているんだ。とルークは言いたかったがココで口を開いても、上がるのは違う音なので言えない。 更なる快感の渦に耐えて、しがなく唇を噛み締めると本当に酸欠になりそうになる。 声を抑えることに集中すると、やがて余計な音のない世界にたどり着く。 本来ならば静けさだけが響くのに、聴覚が敏感に動く。 衣擦れの音がとおのいでいき、自分の喘ぎ声と淫らな水音だけが聞こえる。 「ぅふっ…あ……くっふ…」 確実な場所だけを攻められていく身体の反面、気持ちだけが浮遊する。 気持ちよすぎて、本音が出そうになるから。 「入れるぞ。」 端的にそう言い、必要最低限にだけ服を脱いだアッシュ自身がルークに侵入する。 「あ、ぁぁ……!!」 抑えきれない喚声が、部屋に響く。 律動する身体に流されながら、ルークは痛みからではない涙が出た。 それは、生理的な涙とは違う、どこまでも冷たい涙。 好きじゃなかったら、こんな行為… 好きだからこそ、悲しい。 ひとつになれば、この罪を償うことが出来る。 だけど だから これが最後なんだ。 (…アッシュ……) 心の中だけで呼ぶ彼の名前。 自分が自分でなくなる前に抑制する。 本当の気持ちをさらけ出さないように、悟られないように、自我を保ち続けて。 やがて 二人が一つになったのを、遠のく意識の中でルークは感じ取った。 夜明けなどまだとうに先の時間帯。 アッシュは、出発をすべく手早く身支度を整える。 隣のベッドに沈んでいるのは失神しているルークで、相当疲れた様子を見せているので起きる気配は微塵もない。 その顔には、泣きはらした涙の痕が刻々と残っている。 明かりに照らされ綺麗に流れるそれを、アッシュは指でぬぐった。 「ん……」 それに少しだけ反応して、ルークは身を捩じらせた。 でも、まだその瞳は開こうとはしない。 無理強いを強いたので、そう簡単に身体も心も回復するわけがなかった。 それがわかっていて、アッシュはルークの唇に触れるだけのキスを落とす。 最初で最後の 冷たい偽りのキスだった。 感情など、押し殺してしまえばいい。 こっちだって、回線を開くわけには行かない。 この思いが漏れたらどうする? 後に残るものに、痛みがあるとは思わなかった。 アトガキ 初めては、凄い鬼畜で痛くなりそうなのでやめときました。 2006/07/17 back menu |