※ 一応、1の続き話なのですが、EROではなく、死にネタ及び微グロ含みますので閲覧ご注意ください。 鉄格子は、完全に相いれないことを示す呪縛。 さりて、牢屋越しの、一つのキスを。 それで…終わりだ。 「ここが、元ベルケンド第一研究所か。」 荒れた瓦礫を軽く蹴りながら、一人の男が砂交じりになった唾を吐きながらそう言う。 この無造作に居る男が所属しているのは、ローレライ教団に連なる神託の騎士団であった。 今回、ここへ足を踏み入れたのは任務の一貫で、男がこういう荒れ果てた場所を回るのは一度や二度の出来事はなかった。 荒潮の中にある断崖の洞窟やら、雲に覆い隠された虚空の塔など、その任務場所は多岐にわたる。 だから、今回の研究所は陸地にある分、比較的マシな場所に思えたのだが、その荒廃っぷりはやはりなかなか見物でもある。 しかし、もう感傷に浸るような甘ちゃんな性格ではない。 そんなものまだ青臭い年齢の時にとっくに捨て去るが得なかったのだから。 さっさと任務を片づけようと頭を切り返して、裏口を探す。 昔…遥か遠い昔にレプリカ研究所として使われていた施設の筈だが、今回用があるのは表向きではなく裏の方だった。 長く隠されていたが、どうやら内密の地下施設とやらがあるらしい。 上司から渡された、復元された施設の地図を見ながら探すと、そのポイントの床に扉らしき物を発見した。 大分、風化しかけているが、さすが隠されていただけあって、言われなければ一見とはわからない仕様だ。 手で何とか動かせる程度の瓦礫だったので、いくつか避けて扉を開く。 隙間に詰まった砂は零れながらも、一つの狭い空間を示す。 「暗いな。」 中は見通せない状態で、男は一瞬どうしようかと悩む。 うっすらと中の臭いをかぐと、カビ臭かったが、かえってこれでなんとか微生物は生きていける環境であったことを知る。 地図上ではこの先そんなに長い階段が続いているわけではないのだが、何とか人間の呼吸に必要な酸素は保たれているらしい。 危険を承知で、第五音素を灯した明かりを差し入れても消えることはない。 とりあえず有害は見当たらなさそうだと判断した男は、慎重に地下へともぐって行った。 意外と中は倒壊しているわけでもなく、地図どおり道もしっかりしていた。 突き当りに当たる部屋も、暗くて細部までは見えないが、当時のままのようだ。 連なる装置に降り積もる土をいくつか退ける。 以前に、ここに誰かが入ったのはいつだろうか。 その詳細な情報は、男にはもたらされていないから、別に気にも留める必要はないということだろう。 必要なのは、この目の前の装置情報だ。 レプリカ実験に使われていたという過去の遺物がどうなっているか報告すること。 それが今回与えられた男の任務だったのだから。 「やはり電源は切断しているな…」 出来れば動いた状態で確認をしたかったが、この場ではしようがない。 仕方なく男は、非常に原始的手段であるが、明かりを片手に調べることとなる。 メインの装置たちに際立った損傷は見られない。 だからといって、必ずしも動くという保証はないが。 とりあえず、地下施設が埋もれずに現存しているか、それだけは確認することにした。 ここは監視室で一番上のフロアにあたる。 この下にいくつかの実験室がある筈で、大した装置はないはずだが、危険を含めて見に行くこととした。 実験室は狭い。 元々人間が頻繁に出這入りするように作られていないからだ。 ほらっ、案の定。 いくつか実験用の動物を飼っていたかと思われる形跡…小さな檻や綱が無造作に転がっている。 慌てていたのだろうかという感じの、メスなどの実験用具が無造作に置かれているのも見受けられる。 しかしそんなことは胸中の範囲内で、想像以上に特質することはないなと思いつつ、男は一番大きな実験室近くへと向かった。 そこは、比較的大型の動物を収容する場所だったと、地図には描かれている。 しかし入口はあっても出口はないという、なかなか嫌な仕様だ。 まあつまり、入ったら最期。 出てくる必要がない処置を施されたりするということだが。 モニターも動いていないし、さすがにここは確認することはできないな…と諦めようとした時だった。 「っっ、と!」 やはり地盤沈下のせいだろうか、足もとに妙な段差があって、男はよろけて、そのまま土壁に激突した。 激突してそのまま後ろの壁が受け止めてくれるだろうなら、尻もちを付くこともなかったのだろうが、あろうことにかそのまま土壁は壊れて大規模に穴が開いたのだ。 バラバラと落ちてくる土が、髪や顔にまとわりついて気持ち悪い。 「…やっちまったな。」 創世暦時代の遺物ではないとはいえ、壊すだなんて、任務の中ではかなりヤバい方だ。 しかしこの施設は記録にないほど相当昔に作られたらしいのだから、簡単な衝撃で壊れてしまうのも仕方ないだろう。 立ち上がり、土を払いのける。 「ったく。大体、何でここだけ壁が薄いんだよ!」 イラついた口調で男が叫ぶと、空洞に自分の声が反響する。 誰も聞いていなくても、それぐらいは言いたいもんだ。 さっきまで通ってきた実験室は、どれもかしこもかなりしっかりとした造りをしていて、だからこそ今日まで姿変わりなく残っていたのだろう。 それが、どうして大型動物の実験室のところだけ、壁が脆くなっているのであろうか。 普通逆だろうと力説したいものだった。 しかし、かなり大きい穴を作ってしまった。 男ぐらいの体格でも人間一人が簡単に通れてしまうぐらいだ。 「仕方ねぇな…最初から穴が空いていたとバレそうだが、一応そう報告するか。」 と、なると…面倒臭がって確認をしないでスルーしようとした、この大型動物の実験室の中も一応は確認しなければいけない。 男は、自分が作ってしまった穴を少し先に進むことになる。 反対側に繋がる最後の土を手に持って退けようとすると、その土の乾いた感触にさし当る。 先ほどからあるじめっと空間に相応しいやや湿気帯びた土とは違い、ここの土だけパサパサと乾いたというか焼けた土だったのだ。 僅かに指先で擦ると、ぬぐいきれない炭のような炭素の臭いが舞う。 だから脆くなっていたのかと、男は合点した。 ほふく前進一歩手前の形相で、黒い土を越えて、やっと中へ入る。 ややだが、広い空間に出たことで、小さくしていた第五音素の明かりの光を大きくした。 「何だ…仏さんがいるじゃねえか。」 普通の人間が白骨遺体を見たら、大の男でも一声ぐらいは叫びそうだが、生憎戦場に何度も駆り出されている身としては、まだ血肉がぐっちゃぐっちゃと無駄に剥ぎ飛んでいたりしていないこの状況は、かなり冷静に見ることが出来た。 それにさっきから他の動物の骨もいくつかあったから、最悪の予想の中にはある。 この実験室には、損傷のない綺麗に形が残ったままの人間の骨が転がっていたのだ。 「この服装…うちの関係者か。」 医療知識はまるでないので、目の前に横たわる死体の生前が何者だかはさっぱりわからないが、身に纏う黒を基調とした法衣には、昔の神託の騎士団の印章が刻まれていたのだ。 それも結構身分が高い階級の持主のようで、自分みたいな下っ端とは違う幹部クラスの人物だと検討がついた。 なんで実験室にこんな人物の骨が…いや、それ以上にここは動物の実験室だった筈だ。 この人物は研究者ではないようで、今となってはアンティークの部類だが、かなり上等な剣を持つことの出来る人間がここで死んでいるのは殊更謎に思うしかない。 これは回収してった方がいいか?と、また面倒なことだと思いつつ、改めてその骨の周りを見渡す。 ガツンッと、照明が鉄にぶつかる。 地図には詳細には書かれていなかったが、この部屋は随分特殊な仕様のようだ。 なぜか部屋の真ん中に鉄格子が填められていて、それが当たって音が鳴った。 名にに考えて作られたのかは知らないが、両方牢屋という妙な仕様だ。 多分上の監視室で開閉は出来るのだろうが。 「おい、おい………」 流石に二度目ともすれば、多少は驚く。 牢屋を挟んだ向こう側…そちらにも、こちらと同じように白骨遺体があったのだから。 向こう側の骨が纏っているのは神託の騎士団の法衣ではなかった。 動きやすい白い上着に黒いズボンが、辛うじて見える。 こちらも研究者という佇まいではない。 この状況は相当変わっているとしか言えないと、男は思うしかなかった。 とりあえず、教団関係者の方だけでも何とかするかと、嫌な気持ちになる。 あまりしみじみと思ったことはないが、白骨化した骨は意外と重いような気がする。 全部は無理だから頭蓋骨とか服とかだけにするか、それとも何回かに分けて運ぶかなと、重労働を想像した。 うずまって土の上に広がる法衣をどかし、とりあえず重さの検討をつけようとした。 「ん?」 その骨の右腕は、妙に伸びている。 伝わる腕の先にあったのは、先ほどの鉄格子。 「また、こりゃどうするかねえ……」 本当に困ったことしかここにはないなと、男はつぶやくしかない。 この場に横たわる二つの遺体。 その、右手と左手は、鉄格子越しに、しっかりと握られていた。 無理やり引きはがそうとしても、離れないほど強く−−− レプリカの乖離現象を繋ぎ止めるオリジナル。 それは、望んだから。 死した後、魂の行きつく先まで同じだなんて、そんな幻想は信じていない。 だから、生前だけは…せめて、死んでも共にあり続けることを。 アトガキ 2009/10/06 back menu |