偶然知ってしまったということは、やはり必然だからなのだろうか。 突如、ルークの思考に迷い込んできたビジョンは、真夜中に動くには十分すぎる理由だった。 それは、どこか見覚えのある場所で、必要な人物がいたからこそ勝手に足が動いた。 旅の途中に寄ったベルケンドの宿は、ルークがファブレ公爵の子息ということで知事から紹介されたこともあり、とても珍しく一人ずつ部屋が宛がわれた。 旅先では野宿も多いが、特に女性陣からすればそれが長く続く事は喜ばしい事ではないだろう。 久しぶりにきちんとシャワーを浴びたと感動するアニスの言葉は、全員の心の密かな代弁でもあった。 そんな喜んで熟睡出来そうな日だったのだが、その晩のルークの見た眠りの浅い夢は少しおかしかった。 見えた夢に酷く違和を感じてしまい、真夜中に差し掛かる時間帯ではあったが、唐突的にベッドから飛び上がったのだ。 結構激しく起きたのだが、それでも周囲に気がつかれなかったのは、隣に居たのが小さなゆりかごで爆睡しているミュウだったからであろう。 そろりとベッドから降りて、なるべく静かに扉を閉めて部屋を抜け出すのは簡単なことだった。 夜はどこまでも沈む。 時折、雲が陰りをもたらす様に星々を隠し、同時にルークの姿も暗闇に消える。 夜の人通りは皆無だったが、それでも建物の影に隠れるように移動をした。 「確か、ここだったよな?」 独り言のようにちいさくルークが呟いた先は、ベルケンド第一研究所の一番の裏手にあった。 無造作に置かれたコンテナの隙間を縫って行くと、既に解除された金網の向こうに扉が見える。 以前と同じように入り口を操作すると、少しのほこりを巻き散らかして扉がゆっくりと開いた。 とても小さなその部屋は、ヴァンが研究所内にいた部屋に繋がっていたのだった。 「誰だ!」 ルークが中に入って扉を閉めると、直ぐにその言葉が叫ばれた。 「俺だけど…」 声の調子に一瞬戸惑ったが、しずしずと姿を現した。 「どうして、てめえがここにいる?」 ヴァンの部屋にいたのはアッシュで、相手がルークだったということで、半分だけ警戒を解いた。 それでも、疑問は残るので睨む。 普段からルーク達と一緒になど行動はしていないし、この場所に居るということも伝えた覚えはなかったのだから。 「夢の中でさ、アッシュがここに居るのが見えたんだ。だから来てみた。」 夢なんて曖昧な物はルークにとっては信じるに値するものではない筈だった。 でも妙にリアリティがあって、しかもアッシュが写っていたとなると、半信半疑でも足が動かずにはいられなかったのだ。 「だったら、俺が呼んだわけじゃねえことぐらいわかるだろう。何をしに来た?」 アッシュから回線を繋ぐなんてあまりないことで、もちろん今回もそれをしたつもりはない。 それでも無意識に繋がってしまったようなのは、たまたま二人の居る場所が近かったせいではなく、単にアッシュの そう今ここにいるのもその… 「話がしたいんだ。アッシュ、いつまでもこうやって一人でヴァン 「その話は断ると言った筈だ。それに、俺はお前と話す事なんて何もない。」 ルークの方を振り向きもせずにアッシュは言い切った。 そうして背を向き、机の上に重ねられた本に視線を向けてしまった。 「だったらせめて今だけでも手伝うよ。何を探しているんだ?」 以前ルーク達もこの部屋を調べた事ある。 ジェイド著書の本などはあったがそれ以外大したものは残っていなかったような気がした。 「お前には関係ないことだ。」 しかしアッシュは、その言葉さえも冷たくさえぎる。 正直、大爆発現象のことをルークに知られたくはなかった。 いくら間接的にレプリカのせいで自分がこんな身体になったとはいえ、同情や哀れみの目を差し向けられたくはなかったから。 「わかった、じゃあ帰るよ。」 反論をしても無理だとわかっていたので、ルークは諦めの言葉を出した。 それでも本当は肩を落として残念がったんだ。 二人の関係はいつもこうで、一方的に話が終わってしまう。 せめて協力すればいいのにと口には出すが叶わない。 やはり歩み寄る事は出来ないのかと、頭を悩ませる。 下を向くように先ほど来た道をがっかりとした面持ちで帰ろうとしたその時だった。 「ん?これは…」 何気なしに見た床だったが、思わずその場で片足をついてしゃがみこむ。 それは長い間に掃除をしておらずほこりがたまっていた事と、月明かりが差し込んだことで偶然見えたのだろう。 向き質なはずの白い床に不自然なつなぎ目がルークの視界に入ったのだ。 「アッシュ、なんかこの下あるみたいなんだけど。」 ルークが不信気味にそう言うと、ようやくアッシュも興味を示したらしく近寄ってきた。 「どこだ?」 「ここなんだけど。」 左手で一帯指し示すその場所を見ると確かに整列された大きな正方形のつなぎ目が床に見えた。 試しにその床の上を手で何度かコツコツと叩くと、明らかに他の場所とは違う空洞音が漂った。 「これは、隠し扉か?近くに取っ手か何かは……………これか。」 床を綿密に調べると押し開く仕組みの取っ手が巧妙に隠されていた。 アッシュはそれ力任せで引き上げると、床の一部が簡単に持ち上がった。 「これは、階段?でも明かりがついてる。」 ルークが中を覗き込むと床下から現れたのは、人が一人ぐらい通れるスペースになって地下空間に続いている階段だった。 相当長く続いているようで先は安易には見えないが、なぜか通路の節々に 「譜業で明かりがつくようになっているなら、相当頻繁に出入りしていたようだな。」 そう言うと、卓上に置いてあった剣を手に取り、アッシュは階段を躊躇もせずに降りて行く。 ルークは慌てた様子でその後を追った。 もしかしたら迷宮のようになっているかのかもと思ったルークの思惑はあっさりと外れた。 螺旋階段のように下を目指しは確かにしていたが狭い一本道で、直ぐに突き当たりの部屋にたどり着いたのだ。 アッシュは一応警戒してその部屋に入ったが、もちろん誰もおらず明かりだけがただ付いていた。 殺風景な部屋には端に本棚と思われる金属造りの棚があったが、肝心の本はほとんどなかった。 大方、この研究所を撤退したときに一緒にこの部屋の資料も持ち去ったのだろう。 やはりこの場程度を調べても 「アッシュ、これ何だろう。」 興味津々で部屋の中をキョロキョロと見ているルークが指を示したのは、上部を取り囲むように設置された大きな複数のモニターだった。 どうやら電源を切り忘れているらしく、画像が繋がっている。 どれも見えるのは同じような場所で、土壁に囲まれた狭い部屋を面々と映していた。 「ここは監視室か何かだったようだな。」 一応ルークの問いには答えたが、アッシュの内心では既に嫌気がさしていた。 監視室なんて一丁前な言葉を並べても、その実態は悪趣味な実験室と何ら変わりがない。 非合法な実験は上の研究所では大っぴらに出来ないので、ここで行なわれていたのだろう。 ルークと同じくモニターの下に近づくと、テーブル大の操作パネルが置かれている。 おそらくここで監視をしながら何かの研究をしていたのだろう。 今となってはそれを知る事も叶わないが… コツンッ 上に気をとられて歩いていたアッシュは足元で何かを蹴った。 感触が軽微なこともあったが、屈んで正体を確かめると、それは随分と薄い紙束だった。 直前まで使っていたと思われる様子で、折られた痕や付箋が生々しく残っている。 それを拾い上げてページに目を通す。 その眉をしかめる内容に、しばらくすると資料の紙束をパタンッとまとめた。 「それに何か書いてあったのか?」 「別に何もない。」 その音が嫌に耳についたルークは気になって尋ねたが、アッシュの返事はいつもどおり。 そっけない事はいつもどおりなんだが、それでも声の調子や言い方が少し違って凄く気になった。 「俺にも見せてくれよ。」 左手を出してそれを主張する。 「駄目だ。」 アッシュは資料をルークの手に届かない後ろ手に追いやる。 関係のない内容だと言わんばかりの仕草までされて、ルークはムッとする。 確かに自分はレプリカで知識もないし役に立たないかもしれないが、それでも見せてくれたっていいじゃないかと。 難しくてヤバそうな言葉が並べられているとしても知りたかったので、少し躍起になってアッシュの手元から資料を取ろうとした。 しかしその行動パターンは見通しをされて、素早く移動してしまう。 「あ…」 ぐらりとルークの視界と身体のバランスが崩れる。 掴んだと思ったのに思惑がズレてしまったからこそ起きた現象で、そのまま身体が崩れる。 ゴンッ! そのままルークは音を立てて操作パネルに激突した。 「おい、何をしている!」 ぶつかったルークの右ひざはパネルのいくつかのボタンを無造作に押した。 その刹那、足元が崩れてガクンッと身体が宙を浮く。 瞬く間に二人の視界は闇に落ちて行った。 「いててて………」 軽く腰を打ったルークはそこを抑えながらなんとか立ち上がる。 頭の感覚が一瞬途絶えたことで、一体自分の身に何が起きたのか直ぐには把握は出来なかったが、さきほどの風景とはまるで違うことだけには気が付く。 人が寝転がればそれだけでいっぱいになってしまいそうな狭い部屋に居るのだ。 地面も床も土壁で、脆そうに出来ているようだが触ると岩を含んでしっかりしている。 上を見上げると五メートルくらいの天井にそこだけ金属の穴があった。 ちょうど今のルークの真上に位置することから、そこから横滑りして落ちたのだとやっと理解した。 着地がうまくいかなかったが何とかなったようでも、監視室から何メートルぐらい落下しただろうか。 さきほどよろけた時に押してしまったどれかのボタンが、ここ行きへのスイッチだったのだろう。 「そうだ、アッシュは!」 おぼろげな意識の中ではアッシュも一緒に落ちたはずだったが、姿が一瞬でも見当たらないので大きく声を出す。 「ここにいる。少しは静かにしろ。」 直ぐにアッシュの悪態が返ってきて、ルークは少しほっとする。 声のある方向へ少し足を伸ばすと、強固に出来た鉄格子が目の前に現れる。 かろうじて腕や足の先は通るが、人間一人が通るのは無理だった。 アッシュは鉄格子の向こう側に腕を組んで硬い表情をしていた。 「おい、そっちに出口はあったか?」 「出口?そんなもの、なかったけど…」 不機嫌そうなアッシュに普通に答えてしまったのは不味かったかもしれない。 その返事を受けて、アッシュは一つ舌打ちをして眉間にしわを刻んだ。 「閉じ込められたな…」 「まさか、ここって牢屋?」 見渡す限りの空間は土壁の部屋で、アッシュとルークを挟んでど真ん中にあるのは唯一の堅牢。 二人共、一つの檻の中にいるも同然だった。 つくづく牢屋に縁があると情けなく思っているわけではないが、今のルークにはそう考えるしかなかった。 「さっきモニターに映っていた実験室の一つだろうな。」 アッシュは試しに壁を蹴りつけてみるが、やはり予想通り簡単には壊れる仕様にはなっていなかった。 剣は二人とも所持しているが壁を掘るのに適しているとは到底思えないし、そんなことをしているのは気が遠くなる作業だ。 アッシュの真上にもある、入り口というか出口でもある天井の穴は、駆け上がってもたどり着けるような半端な高さではなかった。 「きっと明日の朝になればジェイド達が気が付いて助けてくれるよ。」 牢を挟んだ格好だったが、ルークは話しかける。 「冗談じゃねえ。お前と同じ空間にいるってことが耐えられないんだよ、俺は。」 そう言うとアッシュは壁を注意深く観察した後、両手を当て始める。 「何をしているんだ?」 「譜術で壁をぶっとばす。何度か繰り返せば、そのうち外に出るだろうからな。」 不思議そうに質問するルークにあっさりとアッシュは答えた。 「ちょ、危ないんじゃないか?」 ルークは慌てて牢を掴んでそちらを凝視する。 洗練されて付け焼刃な自分とは違うから第五音素を司る譜術をアッシュが使えることは知ってはいた。 でも、こんな近くで発動させるのはあの器用なジェイドでも、それほどはしていなかったような気がして思わず素人声をかける。 同時にそれほどまで一緒に居るのが嫌なのかとも思う。 「黙ってろ。」 短く呟くとアッシュは譜術の詠唱に意識を集中された。 ルークは来るであろう衝撃に目をつぶって身を縮める事しか出来ないはずだった… しかし、いつまでたっても衝撃どころか小石が転がる音さえ聞こえなかった。 恐る恐る目を開くと、そこには壁に寄りかかって具合が悪そうにしているアッシュがいた。 「アッシュ!どうしたんだ。大丈夫か?」 こんな彼の姿を見るのは初めてでルークは酷く動揺するが、牢が邪魔でそこまで駆け寄る事が出来ない。 歯がゆくなって鉄格子に思いっきり揺さぶりをかけるが、力を込めてもピクリとも動かなかった。 そんなことをしたせいだろうか。 自分の方にも段々と眩暈が訪れて、頭がぼうっとしてくる。 「…やっぱり、てめえの方にもあったか。」 アッシュの目線の下に当たる足元に、小さい円形の装置が取り付けてある。 そこから知らずのうちに白い煙が出ていることにやっと気が付いた。 少しでも吸わないようにアッシュも中心にある牢の近くに、おぼろげながらも移動する。 「…俺たち、死ぬのかな。」 目の前にやってきたアッシュにルークは呟く。 さっきの部屋で、どれだけ自分はボタンを押したんだっけ。 ここでどんな実験を大人っていたのだかは知らないが、よく見たら自分の方にも同じ装置があって白い煙を吐き出し続けているのだから。 ふいに、その煙を強烈に吸い込んでしまいルークは甘い香りにむせた。 ぜーはーと喉を通ってきて息苦しい。 「落ち着け、天井にいくつか換気扇があるだろうが。それに多分、死にはしない。」 「アッシュ…もしかして何か知っているんじゃないか?さっき読んでた資料の時もそうだったし。」 説得をしている筈なのに、珍しくアッシュは口を濁している。 こんな場所に落ちてしまった理由にもなってしまった資料を読んだときもアッシュはらしくなかったから、ルークは思ったことを言った。 「………お前、自分自身の身体のことをどれくらい知っている?」 しばらく押し黙っていたアッシュだったが、ようやく口を開いた。 「時折ジェイドから定期健診は受けてるけど、別に何も…」 自分と同じ存在であるレプリカを生み出したのはジェイドだが、昔の負い目があるせいかあまりルークの身体のことを詳しく話してくれないことは気が付いていた。 でもそれがこの状態と何の関係があるのだろう。 アッシュからの質問は意図を測りにくかった。 「だったらこれを読め。」 ばさっと渡された紙束は先ほど上の監視室でアッシュが見ていた資料。 別にアッシュもここに持ってくるつもりはなかったのだろうが、間髪入れずにこの場所に落とされたので偶然握り締めたままになっていたのだった。 ルークは素直に受け取って中を開いて見ると、難しい解釈の言葉が記号のように並んでいた。 これでも古代イスパニア語で書かれていなくてほっとしたのだが、それでもフォニック言語のつづりに目を通した。 全て読めるほどルークの読解力は高くはない。 かいつまんで呼んだ内容を知って、ルークは驚きの連続だった。 その資料には、ここで実験をしていたと思われる内容が羅列されていた。 そして今居るこの部屋の実験内容は《レプリカの生殖機能の有無》についてだった。 資料には実験結果までは書いてはいなかった。 もうこの実験は試したのか、それとも途中で放棄されたのはわからない。 それでもレプリカとして当人となるルークは複雑な気持ちだった。 全てがオリジナル−−−普通の人間と同じだとは思ってはいない。 イオンや他のレプリカだって死ぬときは姿かたちも残さずに消えてしまったのだ。 他の身体機能だって違うんだ。となぜ自分は考えなかったのだろうか。 「これで、わかっただろう。今は俺たちが実験体になってるんだろうよ。」 固まったままのルークにアッシュは横槍を入れる。 ここまで何とか耐えてきたが、 そろそろ息切れも限界に近かった。 「じゃあ、この煙は…まさか。」 思いついた嫌な予感をルークはそのまま口にすることはできなかった。 「さっきから身体がだるい。どうせ、催淫効果でも含まれているんだろう。このままじゃ譜術どころか剣もふるえねえ。」 多分、実験に本物の人間は使っていなかっただろう。 レプリカとして採取したモルモットやチーグルを実験体にしていたと思われる、この煙の少なさ。 それでも部屋中にここまで焚きこめられると、昇ってきた煙はもろにアッシュとルークの体内に入ってくる。 「じゃあ、どうすれば…」 噴出される煙の量は段々と収まっているのが見目で分かるが、一度吸い込んだ煙の効果の収まりを待っているだけというのは不可能に近かった。 足が、がくがくと震えてくる。 ルークはもはや身体を自分自身で支える事が出来なくなり、目の前にある鉄格子にもたれ掛かった。 「こうするんだよ。」 アッシュはそう言うと、ルークの両足の間を触れる程度の強さで軽く蹴って太ももで触った。 反射的に内股になったルークは身をかかげる。 その隙にアッシュは、ルークの背中を力強く掴んできた。 元々力が抜けていた身体はあっさりとそちらへ押されてしまう。 そして、くしゃりと後ろ髪を掴まれて引き寄せられる。 「な、何?」 二人を阻む鉄格子がなければ、抱き合う格好にも見える体制に恥ずかしさを感じて、ルークは驚く。 かつてこんな近くにアッシュの顔があったことがあったか?いや、ない。 自分と同じように彼も相当参っているのだけは何となく察せられた。 「目障りだからな、先にやってやる。終わったら静かに寝てろ。」 まだ二人の身体を挟んで隠されていたほうがマシだと判断したようなアッシュは、先にルークを崩すことにした。 瞬間、ルークの上着の裾から滑り込んでくる手。 「な!あっ………」 そのアッシュの手を押さえるより早く、ルークは自分の声を両手で覆った。 わき腹を伝わりながら上着をめくられて段々と上がってくる感触に、背筋が震えた。 露出された素肌が外に晒されて空気の寒さに震えるはずなのに、身体は熱いまま止まらない。 むしろ、触られる事によってますます熱を帯びていく。 恥ずかしすぎて、泣いてしまいそうだ。 「邪魔だ、くわえてろ。」 下に来ていた黒いインナーの裾が捲り上げられて、そのままルークの口元まで持ってこらされた。 戸惑ったルークだったが、両腕は鉄格子相手に身体を繋ぎとめるのでいっぱいだった。 言われるがままに裾の端を口にする。 「はっ………ぐ…」 歯を食いしばるルークの位置からは見えないが、胸部が目の前に晒される形となる。 アッシュの指が、胸の突起まで到達されると痛いくらいに扱われる。 それでも、強くされるたびに反動的に上がる声を抑えるのにルークは必死だった。 これが煙による効果だとは分かっていても、そのまま気は許せない。 それに、忙しすぎて今を生きることしか出来なかったルークにこんな感情は知らなかったのだ。 「ちっ、やりずれえな。おい、下は自分で脱げ。」 二人を阻む鉄格子がある中では、アッシュの二の腕も通るのがやっとで、思うように自由がきかない。 なんとか大きめのボタンを外して上着は剥ぎ取ったが、それほど器用には扱いにくかった。 これから、やっかいなベルトを外すのはアッシュにとっては非常に面倒に感じたから、ルーク自身にやるように命令した。 「む、無理………」 もう既に身体が言う事を利かなくて、このままの体制を保つだけでも辛かったからこう答えるしかない。 その言葉を受けたアッシュは、仕方なく鉄格子にしがみ付くルークの左手を無理やり外させた。 右手に体重が掛かる事になり一瞬ふらついたルークだったが、素早くアッシュの手が腰にまわされて支えられる。 そのまま空いたルークの左手を持たれてズボンのベルトに近寄せられた。 重なるアッシュの手に導かれるように、ルークはガチャガチャと音を立てながらベルトを外して行く。 二人で行なうその仕草がルークには酷くいやらしく感じて目をつぶったが、思考がどこかに行き過ぎて、晒された下半身を恥ずかしいと思う感情さえ消え失せかけていた。 脱がされたズボンから現れたルーク自身がアッシュの手によって巧みに扱われていく。 少し乱暴にも思えるその手つきにルークの感度はますます増していった。 がくりと頭を支える力さえ抜けていく。 思わず下を向くとその様子が間近に見え、先端を強くこすっているのが見せ付ける。 それが恥ずかしくて思わず腰を動かすと、そのせいでルーク自身が鉄格子に触れる。 訪れた冷たい金属の感触が背筋を伝わって震えた。 それを見たアッシュは、鉄格子とルーク自身を一緒に強く握り締めた。 「ふっ、あぁああーー!」 ぱさりと口にくわえた布を放すと、ガタが外れた声が出る。 ボタボタと鉄格子を濡らしながら、したたっていくルークの白い精。 息を切らしてやっと収まったかと思ったが、直ぐにアッシュの腹に擦れるのが見えた。 「なんだ。まだ、足りねえのか。」 「ちがっ、ぁ………」 否定はしてみるが、身体はアッシュにされるがままとなる。 あっさりと身体を後ろを向かされてルークは下半身を突き出す形になってしまう。 掴むものも何もなく、完全にアッシュに体重を持たれる格好になる。 辛うじてアッシュが自分の右指を舐めているのだけしかルークにはわからなかった。 次に下肢に押し込まれてくるものはルークの想像を逸脱するもので慣れるようなものではなかった。 無茶なその動作には痛みを伴う筈なのだが、もうよくわからない。 涙が滲んで視界も虚ろに感じた。 鼻に漂う何かも、鉄格子の臭いなのか血の臭いかは判別することは不可能で、ルークはただ快楽に身を任せることしか出来なかった。 気を失う寸前だったルークを相手にアッシュは攻め立てたのだった。 ルークの意識が完全に飛んだことを確認したアッシュは、収まりきれない自身にゆっくりと手を伸ばした。 この鉄格子が二人の距離を示すかのように、いくら願っても全ては届かない。 浮かび想う相手が目の前のただ一人なのは、なぜか――――― アトガキ エロ書こうとするとたどり着くまでが長い。 アッシュが口に出すことは、全てルークを認めたくないからなんですよ、多分。 めるくてすみませんでした。 2008/06/22 menu next |