「どうしよう…アッシュ。俺、太った。」 それは一カ月後に控えた式典で着る礼服の寸法を測った後に出たルークの言葉だった。 現実を知ってしまった今、情けない声で訴えてくる。 これは多分というか、絶対に幸せ太りという奴だ。 エルドラントから無事に二人揃って生還して、温かい両親や仲間に迎えられて、のん気に過ごしていたら、こうなってしまったのだ。 それほどベッドでごろごろするほど暇だったわけではないが、旅をしていた時のような過酷な生活とは無縁だった為、現状が悲しい。 「べつに男なんだから体重なんて気にしなくていいだろうが。」 軽く目の前のルークを見て回してから、アッシュはそう言った。 「いやだよ。アッシュより体重あるなんて。もしこのまま体重が増え続けたら…」 嫌な先が想像されて、青ざめる。 みせかけ腹筋とか昔からかわれたのがリアルになってしまったら、ああ…お終いだ。 「そこまで悲観的に考えることか?」 正直、そんなことはアッシュにとってはどうでも良かった。 外見が多少変わろうが、ルークであることに間違いはない。 それに本人は気にしすぎで、言われてもどこが太ったんだ?とわからない程度だったのだ。 「決めた!俺、今日からダイエットするから。」 口に出して自分を戒めるように、ルークは高らかに宣言したのだった。 それからルークは頑張った。とにかく努力をした。 とりあえず一カ月後の式典には、アッシュと同じサイズのお揃いの礼服を着れるようにと、それを目指して。 基本の食事制限はもちろんのこと、早起きをしてジョギングをし、執務が終わった後にも剣術の稽古を真剣に取り組んだ。 少々女々しいが、意識づけるために毎日体重計にも乗った。 そして、ついに……… 「おい、大丈夫か?」 念願叶って二人揃って式典に参加したが、当のルークはふらふらだった。 バチカル城で行われる厳正な祭典だというのに、今にもルークは倒れそうで隣にいるアッシュはこっそり他人からは見えない角度で身体を支えた。 「ごめん…迷惑掛けて。」 「俺は、前のままでもいいと思っていたんだが。」 無心に頑張っているからあまり口を出さなかったが、まさかあの強行スケジュールを完遂するとは思わなかったので、呆れる気持より先に感心をしたものだ。 何の執念がそこまでルークを駆り立てるのか、いまいちアッシュのはわかっていなかった。 「だって、アッシュと一緒じゃないのが嫌だったんだ。自分が嫌な俺を好きになって欲しくなんかない。」 やっと認めてもらったのだから、幻滅なんてされたくなかったんだ。 アッシュにふさわしくないと思われるだけでも、末恐ろしかった。 「全く、そんな程度で嫌いになる筈がないだろう。外見が一緒でも違っても、俺がお前を好きになったのは心の方なんだからな。ともかく無理はするな。」 「うん、ありがとう。ごめん、もうちょっと肩貸して。」 それからルークの為に、たまに少しだけ自分の体重を気にして見るアッシュという、変わった構図が見られたりしたのだった。 毎年定期的に行われる健康診断の二人の結果は、言わずと知れず。 アトガキ 2009/01/14 back menu |