一応7の続き話ですが、Bad End Verです。
グロ・カニバ等の表現を含みますのでご注意ください。
1,「俺は、俺を知らない」
そんなことが必要だと思うことさえ知らなかった。
ただ漠然と生まれていて、周囲からはルークは呼ばれたが、俺はそのルークをまるで何も知らないのだ。
「俺は、目の前の男を知らない」
自分と同じ顔をしているという事実だけはさすがにわかるが、客観的な事実以外は何一つ知りえなかった。
男は、俺のことについても自分自身のことについては、何も語らない。
「俺は、レムの塔に行って死ななければいけない」
それだけが、持って生まれた自分の意味なのに、実行しうることが出来なかった。
確かに行こうとして、どこか知らない場所で船を手配し、レムの塔への道は開けた筈だった。
しかし、この目の前の男が突然現れ、自分を連れ去ったのだ。
この男と、どこかで会ったことがある?
そんなことは知らない。
「どんな状態になっても、ルークであることに変わりはない」,2
二人をつなぐ回線が全く通じなくなったルークを捕まえられたのは、本当に奇跡というしかなかった。
この状態になってしまったルークを、そのままレムの塔に行かせるわけにはいかない。
第七音素不足の症状が悪化していることは、傍目から見てもわかる状態になっていた。
取る手段は、ただ一つだけしか残っていない。
ダアトの復興やレプリカの街の建設に尽力していたアッシュは自然に地位が上がっていた。
それは別に進んで望んだものではなかったが、与えられるものは多かった。
そんな中でひとつだけ気にいったものがあった。
ダアト郊外の何の変哲もない広大な土地。
そこは、老年のさして物欲もなかった詠師の一人が所持していた場所だった。
商業的価値の少ない森は、詠師が年老いて死した後遺族からローレライ教団に寄付いう形で譲渡された。
そこをいくつかの名目と管理をするという厄介払いのためにアッシュは、押しつけられたのだ。
レプリカの問題も解決してオールドラントが平和になったら、教団を辞めてその場で暮らそうと思っていた。
もちろんルークと共にという幻想を踏まえて。
3,「普通、牢屋って一人で入るもんじゃね?」
俺は、牢屋なんてものに入った記憶はないが、常識としての一般知識は身に宿っている。
暗く薄暗い地下の鉄格子に監禁されるのだろう…と。
文字通り、俺は監禁されたのかもしれない。
目の前の男に無理やり古びた小さい狩猟小屋に連れ込まれて、外へは出られないようにされた。
初めて来た時は汚い部屋ではあったが、意外と甲斐甲斐しく目の前の男は掃除をし始めたのだ。
最後には、快適に眠れるようにクッションまで持ち込んできて、俺は怒る言葉を少し失った。
そして、一通りのことが済んだら、どこかへ行ってしまうかと思いきや、男は痩せた木の椅子へと座った。
そのままだ。
俺には、そこにいてぼーっとしているようにしか見えなかった。
だからこそ、つい出てしまった言葉。
何だか居られても逆に、こちらの居心地が悪いので、どこかへ行けと行ったこともあっかもしれない。
しかし、男はそこに居続けた。
これは監禁じゃないかもしれない。
最初こそは鍵がかけられた…と思う。
だけど俺は次第に、外に出ても意味なんてないことを知ったような気がする。
欲求だって、どうでもいい…
レムの塔へは死に行くが、ここにいても結局死ぬことには変わりはないのだから。
「俺の中にある、ルークをお前に押しつける気はない」,4
最初にこの場所へ押し込めた時。
ルークは、叫ぶ。喚く。物を投げる。噛みつく。と、一通りの自体は見事にしてきた。
ルークがこの場から出ても、決して自由になるわけではない。
レムの塔へ死ににしくという言葉は何度も聞いた。
むしろ、最初はこれくらいしかマトモな言葉はしゃべらなかったから、言語能力を疑ったくらいだ。
口調こそ、自らがレプリカだと知る前の傍若無人なルークだが、本質が違うことくらいアッシュにもわかる。
かつてのルークの面影だけを残して残酷にあるなら、この今の関係はないだろう。
確かにルークは一度記憶を無くしたことがあった。
あの時は、アクゼリュスを含めた辛い過去を全て忘れたいという意識がもたらした現象で。
しかし、今回は本人が望んでおきた事態ではなかった。
それは、ルークが生を始めた瞬間から決まっていた寿命。
初めて長い生を生きたレプリカの宿命が、ゆっくりと足音を立ててやってきたのだ。
自分のことなんてまるで知らない様子を続けたことに衝撃を感じなかったわけではなかった。
初めこそは、正気を喪失して行くのかと思った。
しかし、何も知らないルークに、何一つ悪いところはあるのだろうか。
知らないことが罪なのは、知っている者が言うことなのだ。
だから、アッシュはあえてルーク自身の話は何もしなかった。
言葉で通じる程度のことを宛がっても、あのルークに成り得るとは限らないのだ。
だから、するのは、世界中の話。
かつてのルークも詳しくは知らなかった素晴らしい世界の話をゆっくりと、するのだ。
今のルークにとっては見たことも聞いたこともない物語を。
生への活力を見出してもらうために。
そう…ルークの身体が普通の手段では、もうどうにもならないことをアッシュは悟っていた。
5,「俺は、飢えている」
最初こそ、ほんの少しは食べたかもしれない。
男が日に三度ほど、どこかから用意する食事を、俺は食べる気が全くしなくなっていた。
無理矢理食べても吐いてしまうのだ。
放って置くと水も飲まないことを、やや口うるさく指摘された。
いいじゃないか…
それなのに、用意された食事ではない…何か満足出来ない餓えが、俺の中に占めていた。
決定的に自分に足りないものがある。
こんなもの食べたいわけじゃなくて。
その具体的な正体を、俺は掴めなくなっていた。
お腹がすいた理由は何?
いつしか楽しく聞いていた、目の前の男が語る世界中の話も満足に聞こえないほど、飢えに統括されていた。
とにかくイライラしてどうしようもない。
早く…早く………
この体の奥から来る飢えを、何とかしたくて仕方がない。
だから、自分のことに精いっぱいで目の前の男の変化に気がつくのが、随分と遅くなってしまった。
「まさか………お前も、食事とってないのか!?」
目の前の男の、足元がふらついていた。
以前はあんなにしっかりとした足取りだったのに。
ゆるい黒地の服でごまかしてはいるが、かつて程よく男の身体に乗っていた筋肉が根こそぎ無くなっていた。
俺に食事を差し入れる際にチラリとだけ見せた長い袖に隠れた手首には、骨と皮しかない。
もしかして…と思った。
確かに自分と男は共に食事はとっていなかったが、最初に聞いた時に外で食べているとはっきり言ったから。
男が自分に食事を与えている時点で、食生活的に緊迫を迎えているとは全く思わなかったが、そうじゃない。
悟ってしまった。
こいつは……俺が食べないから、自分も食べないのだと。
俺は、かつてないほどに暴れた。
居心地の良いように作られた、空間全てを壊すぐらいに。
でも、何もかも遅かったのだ。
自分にも、とうに限界が来ていた筈なのに、それでも生きて来られたのは………
暴れまくった俺は、全ての力を使いきったように、へたりと床へ落ちそうになった。
支えてくれたのは目の前の男であったが、その腕に力があるわけもない。
長らく食事をしていない男の命の、灯も短いようだった。
平和だった世界だからこそ成し得た俺の意識は、奥底へ落ちたのかもしれない。
今度こそ最後で最大の衝動がやってきた。
飢えだ。
ここまで来て、やっと俺はこの飢えの正体を知った。
自分の存在を保つためには、自らを構成する第七音素が必要だ。
それも相当上等の。
気がつくと、目の前にある、オリジナル……の身体が転がっている。
自分にとって最上の第七音素の持ち主だ。
「お前…これをわかっていて、わざと………」
そこまで言葉を絞り出すのは、本当にやっとだった。
こんなことしては駄目だとわかっているのに…
ああ、俺はどこまでも狡猾に生を望んでしまって。
静かに目を閉じる、男の心の臓に手をかけた。
暖かい生を感じるために。
「ああ、そうだ。まだ、お前の名前も聞いていなかったに………………」
6,「あーあ、食べちまった。」
好きだったことなんて忘れてしまっていた筈なのに、この想いだけは確かに残っていた。
口づけをして。
細くなってもきれいな、のど元を食いちぎって。
頬ずりをするように、肉をもぎ取る。
骨まで丸ごと、全てを取り入れる。
噛み砕けない歯も一つ残らず飲み込んで溶かして。
血をすすり、絶えず噴き出す血にさえ全て、逃しはしない。
なんて、おいしいんだ
アッシュ全てを取り込んで初めて気がついたかのように、ルークは正気を取り戻した。
この牢屋に入ることを望んだのはルーク自身だったのかもしれない。
それをアッシュは叶えてくれて。
でも、こんな結末は、何一つ望んでいない。
「俺は、少しも生きたくなんて、なかったのに 」
自分を殺すことがアッシュをも殺すことになる。
そのことを知ったルークの結末は、ただ生きることだけだった。
アトガキ
まずは、鏡にうつった約束の続きをなかなか書けないことを、謝らせて下さい。
最初に話を考えたのが何しろ四年前でして、その時と今では随分と思考が変わってしまったのが、書けない理由の言い訳です。
あの頃は、とにかくハーピーエンドにということで思いついた内容だったのですが、どうも今ではその結末に納得がついておらず、気にいった結末が思い付いたら書き終えようと思っていたのですが、なかなかうまくいかない次第です。
今回、バッドエンドとしてこのような形で一つ書いたのは、区切りをつけたかったというわけではなく、単に暗い結末にするならこういう話だろうなという思いから生まれたものです。
自分で書いているのでなんではありますが、気にいっている話だからこそ、きちんと書き終えたいという思いがあります。
この作品に関しては本当に長いおつきあいになっていて申し訳ないのですが、もしまだ続きを気にしていらっしゃる方がいらしたら、以上の点をご理解頂ければ幸いです。
2010/01/06
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