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  ハーフ&ハーフ












誰かに呼ばれているような気がした。
酷く懐かしいような、毎日聞いているような、その声に。



「ルーク。」
名前を呼ばれてやっと自分に問いかけられているのだと認識する。
おぼろながらに目を見開いたのだが、それは本当には出来ないことだった。
何しろ今のルークには身体が備わっていないのだから。
「もしかしてローレライ?」
それでも自分の口から発せられたと思われる感覚が耳にも届く感覚があり、声を出すことが出来たような気がする。
エルドラントで解放した筈のローレライの声と存在が近くにあるのを感じて、憶測でルークは言ってみたのだ。
本来ないのにそれがあるように感じたのは、喪失したばかりの身体があった感覚がそのまま続いているからだった。
実際にルークの視界には何も映ることはないが、光だけで包まれている世界にいるという虚ろな眩しさだけを読み取る。
「そうだ。今から、鍵の解放で失ったお前の肉体の第七音素(セブンスフォニム)を構築し直す。程なくすれば、再び地上に戻ることが出来るであろう。」
光の世界の中、それでもルークに手をかざすようにより強い存在のローレライは言葉を伝えた。
「俺は死ぬのじゃなかったのか?」
ローレライを解放したらそれに巻き込まれて絶命してしまうとばかり思っていたルークは呆気にもとられる質問をする。
元々その覚悟で解放をしたのだ。
以前のように生きられるという事態に頭がうまくまわらなかった。
「お前は私の期待に応え、私を解放してくれた。オールドラントの第七音素(セブンスフォニム)は減少を辿ってはいるが、お前一人分くらいの癒しの力ぐらいはかき集められる。」
「そっか、お礼を言うのはこっちの方だよ。ありがとう。それじゃあ、アッシュも一緒に?」
当たり前のようにルークは尋ねる。
アッシュはローレライ解放の前に死んでしまったが、その魂は自分が引き継ぎ、第二超振動の発動のキッカケにもなった。
だからこの場に居ないという事を疑問に思ったくらいだったから。
「残念だが、それは出来ない。アッシュの肉体は完全に死んでしまって私の手元にはない、死した存在だ。たとえ力を与えても長くは持つまい。」
気持ち少しながら躊躇いつつもローレライは伝えた。
ルークの魂も肉体も鍵の解放時に一緒に回収したが、オリジナルであるアッシュの方は先に肉体が死んでしまったのだ。
いくら全ての第七音素(セブンスフォニム)を司るローレライとて、無から人間を想像するということは容易には出来なかった。

「そんな…せめて、俺の第七音素(セブンスフォニム)をアッシュに半分渡すことは出来ないか。死ぬ前と全く同じとはいかないだろうけど、それならアッシュも生きられるだろう?」
そんな簡単にアッシュが死ぬしかないなんて、ルークには認められない。
自分が生きているというのに彼だけが死んでしまった世界なんて納得することは出来なかった。
「それは、お前自身の寿命の半分を明け渡すということになる。お前のオリジナルに対する感情は知っているが、本当にそれでいいのか。」
ルークの身体の構築は元々第七音素(セブンスフォニム)で培われていた。
体内の容量が少なくなれば自然に生という結果が減少するしかなかった。
ルークがアッシュに固執する理由を知っているローレライだったが、簡単に選べることではないような気がして確信的に尋ねた。
「それでも構わない。頼む。」
これは自分のエゴだけではないと思うから、すがるようにルークは懇願した。
アッシュは人生をやり残しすぎているんだ。
自分と言うレプリカが生まれて結末がこれで終わってはいけない。
「わかった。お前が望むなら、二人を蘇らせよう。しかし、アッシュの肉体の構築には人間の時間で言う二年の歳月を要することになるからしばし待つことになる。それと…」
歯切れ悪く区切るようにローレライは言葉を止めた。
「それと…何かあるのか?」
いつまでたっても言葉が続かないローレライを催促するようにルークは尋ねた。
どうせオールドラントに戻るなら一緒にと思っていたので二年待つのは全然構わなかった。
それ以上のことが何かあるのだろうか。



「断言しよう。私が力を与えて生きるという事は、お前の寿命は決まっているということを。それを半分にするとなると、残り生きられる年月は………」
ローレライは、とある数字をルークに正確に伝えた。
それを聞き取ったルークは一瞬驚愕としたが、すぐに穏やかに微笑んだのだった。








そして、待ち望んだ二年の歳月が流れた。








ゴンッ!
最初に肉体的感覚としてルークに訪れたのは、その痛みからだった。
この鈍痛は明らかに頭に何かがぶつけられた音。

「やっと、目が覚めたか?」
聞き覚えのありすぎる声が加わられて、反動的に目が覚める。
最初に飛び込んできたのは吸い込まれるような闇で、今まで光溢れる世界にいたのでそのギャップで視界も感覚も狂っているようだ。
よくよく観察するように見ると闇と認識をしたのは、実は夜空で、少し違う方向を見ると満天の星々と月がこちらを迎えてくれるように輝いている。
それを最初に遮るように立ってルークを見下ろしている彼がいたのだ。
「ア…アッシュ?」
ローレライと第七音素や寿命の話をしたことはきちんと憶えているし、二年が経ったことも漠然とは分かっていた。
それでも、何だか彼が目の前に居ることが信じられなくて、半信半疑でルークは名前を呼んだ。
それにアッシュのローレライ教団詠師服姿しか見た記憶がなかったので、違う服で言われるというのも不意打ちだった。
よく考えればアッシュの肉体は死んでしまったので、厚意でローレライが衣装を用意しただけなのだろうが。
「立て。」
両の腕を組んでいたアッシュはそのまま不機嫌そうに命令をかけた。
対してルークは何故アッシュが苦虫を潰したような顔をしているのかがわからなくて。
「ちょっと、待って。まだ頭が痛くて…つか、俺の頭殴ったのアッシュだろ?いくら起こす為とはいえ、もう少し優しくしてくれよ。」
未だに少し頭が響いて痛い気がするから、とりあえず素直に文句を言ってしまう。
それでも何とか立ち上がってアッシュと同じ目線まで来た。
ルークが横たわっていた草むらの近くには真白なセレニアの花があり、それが妙に五感に冴え渡って行く。
遠くには大量の瓦礫の山も見えて、あれは間違いなく、かつてはホドと呼ばれたエルドラントの残骸だ。
ここは夜のタタル渓谷だと、ようやく識別した。
「刺し殺されなかっただけでもマシだと思え!
大体ふざけるな。誰が、お前の寿命を半分欲しいだなんて望んだ?」
掴みかかるような勢いでアッシュは言葉を捲くし立てた。
ルークに対してはいつも少し怒っているような感じではあったが、今回はそれ以上に憤怒を見せている。
「聞いてたんだ………ごめん。俺の勝手で、安らかに眠れなくて。」
まさかローレライと自分の会話をアッシュに知られているとも思っていなくて、一歩引きながら言った。
回りくどく気持ちを裏切ったことだけは、ずっと心に残っていた。
アッシュの意見も聞かず勝手にやったことだが、やはり迷惑だったのだろう。
生来から生にしがみ付いているという印象もなかったが、それでもルークはアッシュに生きて欲しかったのだ。
それがたとえ再び恐怖を与えるための結果となったとしても、この気持ちが叶わなくても。
「俺の魂は死んでいる間、どうやらお前と同じ場所にいたらしいからな。こっちからしゃべることは出来なかったが、話は聞いてた。
たくっ、過ぎてしまったことは、今更仕方ねえ。ただ、覚悟は出来てるんだろうな。残りの時間で反省しろ。」
「わかった。アッシュが生きてくれるのなら、俺は何でもいい。」
本当は半分じゃなくて自分の寿命全てをアッシュに明け渡したかった。
でも、それは出来ないと深層でローレライに遮られたから、これがルークにとっては一番の手段だったんだ。
会話を聞かれていたという事は、アッシュのことが好きだからこんな方法に出てしまったということはバレているだろう。
もうルークは自分の気持ちに偽りを持って出すようなことはしなかった。

「わかったら、行くぞ。」
差し出されたのは紛れもなくアッシュの左手で、それはルークに向かって真っ直ぐと伸びていた。
それをルークは驚いた目で見つめる。
「なんで…」
この手を取っていいのか悪いのかルークにはすぐに判断できなかった。
それは、一人で生きろと言われると思っていたから。
「寿命が半分ということは、死ぬときもどうせ一緒だろうが。だったら二人で居るんでいいだろ。」



夜の闇に響くアッシュの声を受けて、ルークは彼の手を取った。

アッシュとルークは、生まれたときから半分だった。
それは死ぬ時も一緒。



二人を繋ぐローレライの鍵を伴い何処かへと消え行くように姿を失くした。
その後、彼らの姿を見たものは誰もいなかった。






二人に残された時間は…あと756日















アトガキ
アッシュに寿命の半分を渡したルークだったが、オールドラントに戻って来た瞬間ローレライの剣を使って自殺。ローレライに呼びかけて、アッシュに残りの寿命を渡すように懇願するアシュルク完全悲恋の救いなし。
半分でも駄目なんだ。二人で生きることなんて初めから考えていなかった。
という話の予定でしたが方向性が変わって、結局アシュルク両思い心中?ですみません。
2008/07/03

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