[PR] ヒーラー      ル フ ラ ン     
  死刑宣告をありがとう











そこに道はなかった。
ただ、ルークが駆け抜けていくだけで、周囲の草がなぎ倒されて、後に道が出来る。
追いついて離れないように、まず足に付きまとう。
それが、自分が進んできた道は決して消えないことを示して、永久に存在し続けるのだから。

走る、走る、走る、走る、走る、走る事が出来るのか。自分は…
目の前に広がる緑は広大過ぎたが、そのほうがかえってルークの気はよかった。
一人きりになりたくて、ここまで疾走してきたのだから。
そして俺は逃げる。何も知らなかったアクゼリュスの時のように。
でも、逃げて何になるというんだ。
失う物もないが、得る物も何もない。ゼロだ。
今、オールドラントを窮地に追い込んで漂う障気を除去するには、一万人のレプリカとローレライの剣が必要で、残りの自分の命と合わせて、材料と皮肉な舞台は揃った。あと必要なものは…
最後に必要な自分の決心だけがつかなくて、ルークはここまで来てしまった。
「お前が逃げたところで、我らはお前を捜したりはせぬ。」
と、ダアトの会議でインゴベルト陛下を初めとして皆が言ってくれた言葉が脳内にこだまする。
多くのアクゼリュスの人たちを見殺しにした自分にここまで言ってくれる優しさはありがたかった。
それだからこそ、ここで逃げてどうなるんだ。
逃げても構わないといわれたけど、そんな気は無かった筈だったのに。
誰だって死にたくはないからこその、本能が結びつく行動だったのかもしれない。
自分では残酷な結末に見えても、世界の代わりに死ねるのなら、まだマシだと思う部分もあった。
時々無性に一人になりたいときがある。
そして本当に一人きりになってから、現実を思い知るのだ。



颯爽と走ることなんてとても出来なくて、がむしゃらに走った結果、ルークは前のめりに転んだ。
咄嗟に受身をとったが、うまくいかず地面に前のめりに落ちる。
引っ掛けた足元には、自然のままの大地に根付く樹木の根が見える。

「っ!」
刺すような痛みを右手に受ける。
そちらを見ると、大地に露出していた岩の一部に手の甲がぶつかったようで、無残な複数の切り傷が出来ている。
血管まで易々と届いた切れ目からは、血が滲み出る。
止め処も無い赤い血が、視覚からも痛みを訴えてくるのだ。
肉体的苦しさなんて、心に比べたら気にするような事ではないと思っていた。
それでもこの痛みも生きているからこそ与えられるものなんだと、実感する。
赤い血が巡るように、骨身にしみる思い。
それでも俺は生きているんだ…
今ここに鏡があったら酷い顔をしているだろうと思うしかなかった。

なんとか立ち上がったルークだったが、つまずいてひねった左足も感覚がずれて痺れを伴って、異様にうずく。
それでも、とりあえずダアトにいる皆のところに戻ろうと思った。
逃げた事を許してもらえるとは思わないが、逃げ続けているわけでは行かないとわかったから。
身を引き締めるためにまず、倒れた際に服についた泥を手ではらうが、湿った地べたの土がびっしりと白い布地にこびり付いて消えない。
これでは、さも何かありましたと言わんばかりだ。
どうしようかとルークは辺りを見回すと、緑深く生い茂る中で草や色を見せる花々を掻き分けた先から、ささやかに流れる小川の音が耳に入る。
どうやら近くに水場があるようだ。
ふいに訪れる木漏れ日の眩しさや自生するきのこを背にルークはそちらの方へ向かった。









「こんな場所があったのか?」
視界を埋め尽くす新緑の森の中での開けた空間にたどり着いた時、思わずルークは声に出した。
澄み渡る蒼の匂いを持った神秘的な湖がそこにあったのだ。
さほど大きくもないので、ちょうど良かった。
汚れた上着を脱ぎ、水をすくい始める。
泥を洗い流してから近くの大木に吊るすように干すと、日の光を十分に浴び始める。
天気は随分と良いので、これならさほど時間もかからずに乾くであろう。
ようやく一息つくことの出来たところの次に襲い掛かるのは疲労で、走り尽くめたせいで一度かいた汗が身にまとわりついて気持ち悪くも感じた。

「冷たい………けど気持ちいいな。」
ルークは周囲を注意深く見渡してから、見つけていた服を脱ぎ去り、水浴びのために湖に入っていった。











「何をしている?」
その声がかかったのは、ちょうどルークが腰ぐらいまで水に浸かったときだった。
いぶかしんだ相手はアッシュで、湖の淵で嫌そうな顔をしている。
振り返ったルークは驚きすぎて咄嗟には声が出ない。
ここはダアトには確かに近いが人知れない森で、ルークでさえ知らぬ間に入り込んだというのに、何でこんなところにいるんだと聞きたいくらいだった。

「え?………た、ぁ…」
バシャンッ!!!
景気のよい水音が湖の一角に鳴り響く
動揺が重なったこともあり、足を踏み外してルークは水の中でひっくり返ったのだ。
「ちっ!」
見かねたアッシュは言葉を切り結び、仕方なく上に羽織っていた法衣を脱ぎ捨てて湖に飛び込んだ。
ざぶざぶ進むたびに水の抵抗にあったが、急いでルークの沈んだ地点まで足を進める。
そうして、じたばたともがくルークの左手を掴んで、一気に水面へと引き上げた。



「ぷはっ!げほっ…けほ、…」
少し水を飲んでしまったらしいルークは慌てて酸素を取り込みながらも何度も咳き込む。
水中で漂ってしまったことが悪かったようで、先ほど居た地点より離れてしまい、今はルークの胸まで水が浸かることとなってしまった。
「た、助けてくれてありがとう。」
なんだか自分が情けなくて、真っ直ぐにはアッシュの方を向けないが、何とかそう言った。
でも正直、見捨ててくれたほうが良かったという一抹の思いもあった。
逃げようとしたことがばれて、怒られることを心配したから。
必要以上にびくりと震えたのもそのせいで、何だか怖かったのだ。
「こんなところでのん気に水浴びなんか、するんじゃねえ。おまえは俺と同じ顔だということを忘れているわけじゃねえだろうな?それに、魔物が現れたらどうするつもりだ!」
救ったルークの左手を掴みながら、さらに駆け寄ってアッシュは怒りを露わにした。
まだルークは自分自身の立場をわかっていない。
にルークの行動は全てオリジナルであるアッシュにも、嫌が負うにも繋がってくるのに、王族としての品格以前に無防備すぎる。
どうしてこいつはいつも自分の頭を痛ませることしかしないんだと、またイライラと頭が痛くなる。
「ごめん。一応確認はしたんだけど…」
何だか違うことで怒られて、逃げたことを咎められると思っていたからルークは拍子抜けした。
そのぽかんとした顔が更にアッシュには気に入らなかった。



「ちょうどいい機会だから、はっきり言っておく。レムの塔には俺が行く。おまえは余計なことは考えるな。」
表情を深く引き締めて上から言い放つ。
「な!そんなことは、出来るわけ…」
「怖くて逃げ出したおまえに、死ぬ度胸があるのか?」
ルークの言葉は最後まで続けることは出来ずに、逆にアッシュに図星をつかれた。
やっぱりわかっていたんだ、と気が沈んで黙り込む。

「今更仲間の元にも戻れないって言うのなら、ここで沈んでいるのがお似合いかもな。」
そう言うと、アッシュは掴んでいたルークの手をこちら側に引き寄せた。
「ぅあっ!」
水中に浮かんでいたルークは酷く簡単にアッシュに身を拘束された。
左手だけでも身体の自由が奪われると、泳ぐことに慣れていてないルークにとっては致命的で、身体が枷になったように、バランスを崩して仕方がない。
早速アッシュは落とし入れるように、ルークの何も纏っていない下部に触れてきた。
感覚的に落ちると思ったルークは思わず、アッシュの肩にしがみ付いた。
その行動にアッシュは鬱陶しそうに眉をひそめたが、知らしめての悪戯を進めた。
何の反応も示していなかったルーク自身は、アッシュの手によってあっさりと肥大し、一気にルークの中を押し寄せる波が来た。
それはさっさとルークを落とすために、アッシュがわざと両手をつかって押し進めている結果であった。
かわるがわる幾度も色々な部分を責められて休む暇もないし、余すことも無くなり、どうしようもなくなる。
こうやって掴まっている状態ではどうなっているのかルークには見ることは出来ないが、それがかえってよかったのかもしれない。
乱暴すぎる手つきではあったが、それでも感じてしまい、身体の奥が震えたから。
「ぁ、ふぅん……あ、ん………」
先端を軽く刺激されるだけでも先走りする何かが出ているのがわかって、その感覚に身震いをする。
腰ががくがくしてとても無理だった。
浮力でしがみ付くことしか出来ないルークはアッシュのなすがままになり、二人で浮き続ける。

「強情だな。ここで落ちれば楽になれるぞ。」
アッシュの声が耳元で聞こえる。
みせつめのためとはいえ、今更ながら近すぎる距離にルークは戸惑った。
途端、暑い日ざしの下で誰もこないとは思うが、人目も気にしないで湖の真ん中でこんなことをされていることに羞恥心を感じる。
アッシュがここに来たということは他にも誰かがくるかもしれないのだ。
外を真っ直ぐとは見れなくなったルークは、思わず顔を下に背ける。
だがそれは逆効果で、浸透力のありすぎる水面に揺らめく自分の顔が、淫らに反応しているのを認識してしまった。
本当にこのままだと落ちるだけだと思ったルークは、力を振り絞って行動に出ることとした。
「…何のまねだ?」
黒を帯びたアッシュの短い声がかかる。
ルークにとっては、半分やられっぱなしは悔しくてやったことでもあった。
密着していることをいいことに、ルークは開いていた左足の先で、乱れていないアッシュの下半身を触ったのだ。
開放されていないその場所は、固くなっていた。
それの行動は、予想以上にアッシュの機嫌を悪くしたらしい。
「ぅ、やめっ……」
一拍もせず、ルークは足を掴まれて無理やり広げさせられて体制が後ろから沈みそうになる。
アッシュに背は支えられているが、不安定なのには変わりがなく、暴れることさえ出来ない。
混乱が収まらないまま、ルークの秘部に何かがひたっと突きつけられた。
冷たい水の中でも熱さを感じるそれの正体を悟ったとき、何もかもが遅かった。
「つぅっ……!」
ほぐしてもいないその場所に一気に水を潤滑油の代わりとして、突き進む。
その痛みにルークの悲痛な音が辺りに響く。
でもそれは最初だけで、何度も繰り返されるたび次第に色を帯びた声が入り混じる。
中に入ってくる温度の低さより、アッシュのモノの熱さの方が勝ったのだ。
数え切れないくらい揺さぶられて、押し寄せる水柱や短く跳ね上がる水しぶきは、もう目には入らない。
押し寄せる快楽に身をゆだねてしまいたくなる。

もう、力が………アッシュの肩を掴みきれない状況にまで陥り、まず怪我をしていた右手から水の中に落ちた。
転んだ際に着いた乾かない傷の血が滲み続けて、透明な水に赤い濁りを加える。
もしかしたら出血が続いたせいで貧血を起こしているのかもしれない。
同時に体力も奪われて、ついにルークはアッシュから全ての手を離した。
今度こそ落ちると思ったが、刹那もかからないうちにアッシュに強く引き上げて抱きしめられた。

「…ひっ…、あぁ!!!」
声が続く限りの叫びに、打ち震える。
二人が強固に近付き繋がったとき、アッシュを深く感じたルークは白濁で神聖な水を汚した。

そして、力が尽きても、彼に溺れ続けた。














次に目覚めたとき、ルークははっきりと意識もあり、湖に沈んでいたわけではなかった。
たくさんの人に顔を覗き込まれて、そしてその人物たちはルークがよく知る者たちだった。

「うわぁ、ルーク起きたね。大丈夫だった?」
詰め寄りながら、驚きを前面に出してアニスが叫ぶ。
そう言われてようやくルークの意識が舞い戻ってくる。
ここは、どこだ。俺は森にいたんじゃなかったのか?
多少気だるかったが、無理にでも起き上がると、やはりベッドに寝そべっていたのだとわかった。
しかし、いつ意識を失ったのかさえ憶えておらず、もちろん今までの記憶は見事に失われていて、どうしてこのような状態になったかが分からなかった。
「体調が悪くて町外れで倒れていたって本当ですの?心配しましたわ。」
右左を妙に確認しておかしいルークに、少し怒るような、でも涙ぐんでナタリアがそう言ってくれた。
「え?何で…」
ナタリアには悪いがそれは事実ではないので、どうしてそんなことになっているのかと尋ねる。
自分は一時でも逃げたんだ…使命から。
仲間とはいえ、いや仲間だからこそ、どんな汚い罵声でも浴びせられる覚悟はあったのに、こんな反応をされると首を傾げたくもなる。
「アッシュが倒れていたあなたをここまで連れてきたのよ。憶えてない?」
ティアの折角の返答だったが、ルークは押し黙る。
正直、憶えていない。
それに、体調が悪かったわけではないので、それは多分アッシュの作り話だと知った。
なんでそんなことを、あのアッシュがしたのだろう…
「障気が蔓延しているのですから、魔物も殺気立って居ます。うかつな行動は慎んでください。」
きちんと釘を刺しても心配してくれるジェイドがありがたかった。
みんなが無条件に心配してくれる、罪悪感がある。
だからこそ…

「心配かけて、ごめん。俺直ぐにレムの塔に行くからさ。」
重い空気を飛ばすように、精一杯明るく元気そうにルークは皆に答え、僅かに身体を背けた。

アッシュはみんなに何も言わないでくれた。
それは、自分はここに居ろということを示しているのだろう。
俺は口だけで、決意がどこまでも甘かったのだ。
今ならまだ間に合うから、彼を追いかける。そして追いつく。
やっとわかった。彼の身代わりのために、俺は生きていたんだ。








生まれた最初から死ぬ最後まで、それで良かった。

ありがとう、生も死も決めてくれて。






ルークはアッシュと同じ階段を駆け上がることを選んだ。
















アトガキ
2008/08/02

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