「てめえ!何しやがる!!」 その罵倒は、街の数少ない商店の方から聞こえた。 この街は研究者たちが集ってばかりで、商業都市としての成り立ちは皆無に近い。 だからそんな場所が騒がしいなど、珍しく感じた。 ただでさえ今は、やっと障気が消え失せたことで、街の人たちから漏れる安心と晴れた顔を臨めていたから、尚更だった。 ちょうど足近いこともあり気になって、ルークはそちらへ様子を見に行った。 問題の場所は、野次馬根性があるものが既に集まっており、ざわめきと人垣が出来ていた。 狭い合間を縫って割り入ると、惨状が明確になる。 色とりどりの野菜や果物が並べられている店先で、声を上げている男は店主であろうか。 その前に立ち尽くしていたのは、一人の男だった。 右手には、かじった跡の見える果物が握られている。 彼は、レプリカだ! ルークは瞬時に察した。 あの精気のない瞳が、何よりの証拠であった。 「店の商品を勝手に食いやがって!ガルドなんか持ってねえだろ。このレプリカ野郎!!」 荒々しく言葉をたたみかける亭主も、その男がレプリカだと気がついていたらしい。 その言葉に、レプリカだと気がついた周囲の熱が一気に冷めた。 この街の第一音機関研究所で、レプリカの礎が作られていた。 そのことは、一介の住人にはなかなか受け入れがたいことだったに違いない。 罪悪感があるからこそ、偏見の目は厳しいであろう。 これだけ大声を上げられているのに、肝心のレプリカは浴びせられる言葉を虚ろに聞いている。 これは悪いことだ…そういった認識さえないのだろう。 刷り込み教育によってレプリカたちは個性もなく、ただ生命を与えられただけだった。 あれだけの数のレプリカが作られたのだ。 個体によって、出来不出来はある程度はあるだろう。 マリィレプリカはたまたま高い知能を誇っていたようだが、大体のレプリカなんてこんな感じだ。 そう、ルーク自身がその身をもって知っている。 小さいときのことなんて覚えていないけど、ガイから聞いた口振りだと生まれたばかりの状態だったらしい。 「何とか言ってみたらどうだ!」 脅迫するように店主はそのまま、レプリカに迫りよった。 今にも、掴みかかりそうな勢いではあったが、それでもレプリカは何もしゃべりはしなかった。 いや、出来ないんだ。 彼はそれを知らないから。 ルークは咄嗟に人ごみから出て、店主とレプリカの間に割り入った。 自分は声を出すことが出来ない…それをも忘れて。 そんなに怒鳴らなくてもいいじゃないか!とルークは訴えたかった。 簡単には認めたくはないが、レプリカは普通の人間でないから常識が備わっていないことは既に知っているであろう。 確かにガルドを持っていないのに店の商品を取るのは悪いことだ。 でも、こんな晒し者みたいにするのではなく、もっと然るべき対応をとって欲しかった。 彼がレプリカではなく人間なら、ここまでの横暴はしなかったと思うから。 「何だ。てめえは?」 突然にルークという阻む者が出てきて、店主はいぶかしんだ。 明らかに庇い立てをするような行動が癪に触った。 自分に悪いことは微塵もないと、思い込んでいるから。 「身なりは、いいみてえだが……てめえも、レプリカか!?」 立ちふさがるルークの芯の通った瞳は見たものの不審がりながら、その言葉を放った。 そうだ。俺もレプリカだ。 そのことは、本当のことだし否定するつもりはない。 でも、同属だからこうやって前に出ているわけではない。 全てを納得してもらいたいわけじゃない。 ほんの少し理解して欲しいんだ。俺たちという存在を。 この場でそのことを、大声で叫びたくても叫べないのは悲しいけど、ルークは真摯に訴えかけた。 それを周りにも察しられたので、レプリカの胸倉を掴みあげた。しかし、レプリカはここにきてやっと息苦しそうに表情を変えたが、そのルークの意図が伝わったのだろうか?店主は戸惑い、二の句を告げることが出来なかった。礼も言わずに、どこかへと行ってしまう。事態を悪化させてんじゃねえ!離せ。何を言っている。ふらふらしてんじゃねえよ。だから、厄介ごとに巻き込まれるんだ。掴む。声が聞けないと不安で。「な、何を?アッシュみたいに格好の良い声は出せないけど。オレと同じ声で、情けなくしゃべる晒すな。情けない声を出すんじゃねえ。俺を見てくれる。ルーク。何度か名前は呼ばれたことはあったけど、これは特別に感じて。そして、いつか… だから、俺は頑張れる。もしものときのために、持ち運びしやすいポケットサイズのメモ帳とペンを持つ。だけど、たった一つだけ…それだからこその、救われることがある。どの道、ルークに反論は出来ないけど。俺を見て欲しい。これ以上、足を引っ張るな。この痛みをバネにして。ちょっと、ルークどうしちゃったの?このまま寝てしまったら、もう二度と目を覚まさないんじゃないかと思ったことはある。このまま一生ということも無きにしも非ず。だから、一人になる。受け取ったペンを使い。 決定稿前の案でした。↑のぐだぐだ文章はそのときのメモだったのですが、今となっては解読不能なのでそのまま載せておきます。普段どれだけ自分が適当にプロット組んでいるかよくわかるな… 以前サイトに置いておいたサンプル小説の改定前という感じです。 このお話ではルークの声が失われている設定なので、全くしゃべってません。 2008/05/10 back |