キムラスカ・ランバルディア王家には古来より伝わる宝物がある。 第七音素集合体であるローレライの名を持つ、剣と宝珠。そして二つを重ねたときに初めて現れる鍵。 どれ一つとっても第七音素を無限に引き出す力を所持しており、代々それを守り使えし者は正当な血筋にある王家の人間だけとされていた。 ND2020、成人の儀を迎えると共に新しい王が即位をした。 彼の即位前の名は、ルーク・ファン・ファブレという。 王家に連なる血筋を持つファブレ公爵家に生まれたルークは、一番ローレライに近い存在と預言されたため、異例の即位がなされたのだった。 そしてルークの双子の兄アッシュは、即日近衛兵隊長に任命されたのだった。 実際に政治を行っているのは元老院だが、それでもルークはアッシュの助力を借りつつも歴代に名を残る王として良い治世を行っていた。 しかし、ある時王都バチカルのお膝元であるベルケンドで暴動が起きてしまう。 くすぶった火種は巻き上がり、暴動は他の暴動も呼び収束がつかなくなる。 実は暴動はローレライの鍵を使ってローレライの力を手に入れようとするヴァンの策略だったのだ。 ベルケンドには元々ローレライの剣が安置されていた。 一つの場所に剣と宝珠を置いておく能力の危険性から元来からそのような体制になっていたのだが、このときだけは裏目に出てしまう。 剣を奪われることを恐れたルークは本来の鍵の形に戻しておくために、宝珠を持って行き、場を収めようとした。 だが願いは空しく、ローレライの剣は何者かに奪取されてしまう。 途端に力を暴走させたのは、対になっている宝珠の方だった。 ローレライの剣は力を制御するためにベルケンドに安置されていたのに、それがなくなってしまって宝珠の法は不安定になってしまったのだ。 仕方なくルークは自身の中に乖離現象を起こさせて、宝珠を封印することにすることになってしまった。 それが今後の悲劇を物語ろうとも、その場ではそうするしかなかったのだった。 そうしてルークの歯車は少しずつだが確実にズレていった。 いくらローレライに近い力を持っているとはいえ、不完全な状態の宝珠を体内に持ち続けるのは身体が拒否をする。 ルークは、まれに第七音素の力が漏れていき、正気が保てなくなっていく。 宝珠がいくら剣を求めて暴れても、肝心の剣は一向に見つかる事はなく、そのままの状態が続く。 暴走する宝珠に精神を乗っ取られるルークの側に常に寄り添い、沈めてきたのはアッシュだった。 無二の双子でルークと同等の力を持っているアッシュにしか、それは出来ない事だった。 正気でないルークが出てくる回数が頻繁になってきた昨今、アッシュは一つの保険をかけることにする。 それは、幼馴染のガイを近衛兵副隊長に配属することだった。 ガイは幼い頃からファブレ公爵に勤めており、ルークとアッシュの遊び相手兼使用人であった。 特にルークとは仲がよかったのだが、ルークが王に即位してからは立場の違いから離れていたのだった 元々二人の剣の稽古の相手をしていたのでガイの実力は相当なもので、異例の特進にはなったが近衛兵副隊長になることの異論は少なかった。 しかしガイ自身はこの配属に首をかしげる部分があった。 双子であるルークとは確かに仲がよく色々と世話をやいたのだが、なぜかアッシュとは反りが悪く感情を込めての間柄ではなかったから。 それなのに潔癖のアッシュが身近に配属するなどということは、何かあると感じた。 本来ならば敬語を使わなければいけない立場なのだが、今更の間柄。 ガイはストレートに、アッシュに今回の配属の理由を聞いた。 アッシュは一言だけ言葉を発する。 「もしも、俺が駄目なときはルークを頼む」と。 言われなくてもガイはそうするつもりでいたが、このときのアッシュの言葉は必要以上にずしりと重くのしかかったのだった。 そしてついに保険が叶ってしまう時がくる。 王城を取り囲む暗殺部隊神託の盾騎士団が狙うは、ルークの身に宿るローレライの宝珠であろう。 宿主であるルークが死ねば確かに宝珠は手に入るので、ヴァンからすれば確実すぎる方法だった。 配置されていた警備に当たる近衛兵たちをなぎ倒し、謁見の間へと音もなく向かう神託の盾騎士団兵達。 謁見の間の王座にはルークがおり、両脇にはアッシュとガイが固めて侵入者を待ち受ける。 ルークを狙い現れる侵入者たちを次々とアッシュとガイは剣を抜き去り、なぎ倒していく。 その数ははかりを知れず、止め処もなく押しかけてくる。 ルーク自身も王剣持ち襲来に備えるが、二人に守られているのでその剣技を奮うまでにはいたらない。 さすがの神託の盾騎士団兵もこれでは不味いと考えたのだろう。 後方へと伝達をかけてから、くだされる新たな任務。 それに気が付いたのは場を広く見ていたルークだけだった。 神託の盾騎士団兵が譜銃を構えて狙った先は、応戦を繰り返しているアッシュで、そちらに精一杯で動けるはずもない。 途端ルークは王剣を地へと投げ捨てて、超振動を発動させる。 身に宿るローレライの宝珠の力も借りて、その衝撃はすぐさまアッシュ狙撃をしようとしていた兵の身体を貫いた。 ほっと一安心したルークだが、身を突き上げる衝動がやってくる。 これはローレライの宝珠を使った反動の副作用。 ローレライの宝珠が体内を駆け巡り、剣を求めて第七音素の力を発散させたがっている。 ルークの精神が乗っ取られて正気が保てなくなる。 いつもならすぐにアッシュが収めてくれるが今は……… 「ルーク!」 それでもアッシュはルークの事態にすぐに気が付き、声をかけて何とか戻そうとする。 「ア、アッシュ…」 振り絞るように声を出し、なんとかアッシュの方向を振り向くことが出来たルークだったが、もう手遅れであった。 ルークの前方に第七音素が爆発するように集約した。 そう…まさに振り向いてしまったアッシュめがけて超振動が発動してしまったのだ。 はっと、正気に戻るルーク。 そのときには既にアッシュの身体が宙に浮かんでいた。 まっすぐにルークを見つめて穏やかに優しい顔で何かを呟いた。 その声は伝わる事はなかったけども、ゆっくりと最期に微笑んだことだけが目に焼きついた。 そうして、何も残さずに消えてしまった。 最愛の最高のアッシュを自らの手で殺してしまった事実に、ルークは平定を保つことが全く出来なくなった。 良かれと思ってやったことが全て駄目になり、そして大切なものを失った。 ルークの心は壊れたガラス細工のようにあっけなく宝珠に支配された。 宝珠も剣を失ってどこまでも不安定なままだった。 第七音素の力を暴走させて、周囲に無数の超振動を巻き起こす。 それは敵味方関係なく、全てを壊すように。 攻め込んできた神託の盾騎士団兵さえも事態に逃げ腰になる中で、唯一生き残ったガイは呆然と立ち尽くす。 「これがアッシュの言っていた、もしもの時か…」 自らにかけられていた保険の意味を確実に理解したガイは、決意して王座への階段を上る。 ルークには、もはや意識はなく、ガイのことを識別もしていなかった。 ただ力を暴走させるだけの身体となっている。 ガイは血みどろの剣を更に染めさせるように、一撃でルークの身体を貫いた。 止まる暴走は、ルーク自身の身体の衰えを意味する。 「俺を恨んでくれていい…」 そう呟くガイにルークは 「ありがとう…これで俺もアッシュのところへ行ける………」 と、同じように微笑んで言い残した。 ルークの身体を包む第七音素の光。 ローレライの宝珠が体内から吐き出されたとき、ルーク自身の身体はもうどこにもなかったのだった。 ルーク=アルシュタート アッシュ=フェリド ガイ=ゲオルグ でお送りしました。立場だけのパロなので性格かなり違いましたが、すみません。 簡単に書いちゃいましたけど実際はもっともっと深みがあって感動的です。 2008/05/09 back |