アッシュが優しい。たとえ、それが同情でも……… 「おい、さっきの戦いで傷でもつけてないだろうな?」 「大丈夫だよ。それに今の俺は剣なんだから、それが当たり前だよ。」 エルドラントが崩壊し、アッシュもルークも死んでしまったのかと思われていた。 それは本人たちも同様で、再び目が覚めたときまだオールドラントで生きていると知ったときはとても驚いた。 しかし、それ以上の驚きはルークの状態だった。 アッシュは生前と同じ姿で、それこそ傷一つない状態であった。 それに対してルークの身体はどこにもなく消え去ってしまっていた。 第七音素で創られていたレプリカが力を使い果たしてなくなってしまったのは、想定していたことだった。 変わりのようにルークとして与えられたのは、ローレライの鍵であった。 憑依するかのように剣と宝珠に挟まれて宿り、なんとか意識を保っている。 もちろん言葉を発することも出来ないし自力では動けずに何も出来ない。 しがみ付いた存在だ。 唯一完全同位体でローレライと同じ音素振動数であったアッシュと通信が繋がっているだけである。 エルドラント崩落直後よりローレライの声も聞こえなくなった二人は、人知れずルークを元に戻す方法を模索し始めた。 最初はバチカルに帰ろうとも思ったのだが、今のルークの状態を晒して余計に周囲に迷惑をかけるのは忍びなかった。 見捨ててくれても構わなかったのに、そんなルークを拾い上げたのはアッシュで、以後ずっと一緒にいる。 「剣の状態っていうのも悪いもんじゃないな。自分で譜術使っているような気にもなるし、案外楽しいぜ。」 ルークはよくしゃべった。 それは自分の存在を示すかのようになり、たまに自重する結果になる。 アッシュは血眼になって探してくれている。 その瞬間だけは彼を束縛できると思うと、ルークはやましい気持ちを得た。 だから、アッシュか一人で眠っていて、ルークは眠れなくても気にしないでいることが出来た。 寝たふりはしていたが、もしかしたら眠っていないことは気がつかれていたのかもしれない。 どうせ彼にしか聞こえないのだ、自分の存在は。 重荷になっていても、あと少しだけだと自分に言い聞かせた。 「ちっ……俺としたことが、てこずっちまったな。」 いつものように魔物との戦闘を終えると、アッシュは呟いた。 ルークという存在がローレライの鍵に宿って以来、アッシュは剣としての鍵を鞘にしまわなくなった。 そのまま持ち歩いていると扱いが難しくもなるのだが、構わずにいた。 魔物によって汚れた剣の手入れをしようと、目の前までもってくる。 よし、ヒビなども入っていなくて正常だと思っていた……… ごろり…と重い音を立てながらアッシュの手元から何かが落ちた。 赤い、とても赤い宝石が尽きるように、ローレライの宝珠が剣から転がり落ちたのだ。 驚愕しながらも身体は動き、アッシュは急いで宝珠を拾い上げた。 こんな自然に落ちるようなことはなかったし、外したのも初めてだった。 既に宝珠は今まで放っていた鈍い光が消えている。 焦る気持ちを抑えながらもアッシュは宝珠を元の位置に戻そうとした。 しかし、もう二度とはまることはなかった。 なぜだかはわからないが、崩れたパズルのピースのように、なりえた。 吸い付くように一緒になっていたという認識は呆気なく去った。 「…おいっ!レプリカ!!」 繋げる回線。叫ぶ声。響かない鍵。返される言葉はなかった――― ペーパー小話vol.2より 2008/01/27 back |